男女の友情は存在するのか?



!学年が判明する前に書いたものなので西野空と隼総は同学年設定。


同級生である隼総と私は、かなり仲が良かった。付き合っているわけでもないのに、お互いの家を行き来したり、二人きりで何処かへ遊びに行く程度には仲が良かったりする。勿論、そういう関係ではないので何も起きないのだが。友達は、恥ずかしがっているだけで、付き合っているなどと邪推しているようだが本当に何もないのだ。隼総自身も、西野空なんかに「とかいってぇ、本当は彼女なんじゃないのぉ?」などと、からかわれるときがあるみたいだが「違う」とキッパリ切り捨てている。そんな現場を私は幾度となく目撃している。西野空も諦めたのか、最近は言ってこないらしい。隼総談だが……実際に見なくなったし、事実なのだろう。隼総はこんなくだらない嘘を吐く男ではない。



時計に目をやる。少しの間逃避していたが、現実はじりじりと私を追い詰めていく。気が付けば随分と時計が進んでいた。実は今日、宿題を忘れた私は、不幸なことに先生から居残りでこのプリントをやるようにと、五枚つづりの紙を渡されたのだ。流石の私と言えど先生の名に背くわけにもいかず、部活に行くこともせずに、せっせと一人きりで教室に居残り問題を解いていたのだ。隼総はとっくに帰ったのだろうか……、と窓の外を見た。サッカー部は練習を終えたのかもう姿が見えない。そろそろ私も切り上げたいところだ。



三枚目のプリントを終え、捲ったのと同時に教室のドアがガラガラと音を立てて開いた。先生が帰ってもいい、と告げに来たのか?と期待しながらその人物を見て私は驚いた。「あ、隼総。帰ってなかったの?」「……ああ、部活終えてきたんだけど、お前まだ、終わっていなかったんだな」私に近寄り、近くの椅子を引いて座る。そして、私のプリントを覗き込んで顔を顰めた。「俺が部活に行ったときとあまり変わりが無いように見えるんだが?」「……苦手なんだよ。数学」ぐしゃぐしゃに丸めて、ゴミ箱に捨ててしまいたい衝動に駆られるくらいに私は数学が大嫌いなのだ。「ていうか、隼総帰らないの?疲れているでしょ。私もさっさとこれ終わらせて帰るもん」



「別に予定もないし、折角だから話し相手くらいにはなってやるよ」唇が弧を描く。それから、地面に自分の鞄を置いた。それは帰宅する意思がないということを表していた。「……有難う。誰もいなくて心細かったの」「そうだろうと思ったよ。西野空なんてやってらんなぃー。とか言って提出してねぇし」思い出したように言う隼総。本来ならば西野空も宿題を忘れて、居残りだったのだが、逃げたのだ。途端に西野空に対して少しだけ憎しみが沸いた。「そういえば、西野空で思い出したんだけど最近あいつ隼総のことからかってこないね」「からかう……?」思い当たる節がないのか、隼総が何のことだ、と言わんばかりに小首をかしげる。その仕草がらしくなくて珍しいものを見た気分になった。「いや、前までは私のこと彼女みたいに言って煩かったじゃん」自分で言うのもなんだけど、隼総という男との釣り合いはそう簡単に取れる物ではないから、冗談にしてもかなりたちが悪い。



そこまで言ってやっと理解したのか「ああー」と言って、瞳を細めた。それから、話題を逸らすかのように、話を変えた。「名前は男女間の友情って存在すると思うか?」行き成り何を言い出すのか、と目を円らかにしていたら隼総が「間抜けな顔しているぞ」と笑い出した。「煩いなぁ、」悔しくなってそれだけ言って、シャーペンを滑らせると隼総は満足いかなかったのか、再度尋ねてきた。どうやら、答えを求めているらしい。私からそんな答えを聞いてなんになるのだろうか。「で、どうなんだよ?」「存在するんじゃないの〜?現に私と隼総は友達でしょ?」



友達、なんて隼総に面と向かって言う日が来るなんてと少し気恥ずかしくなりながら答えると隼総が溜息を吐いて軽く俯きながら首を横に振った。私は何か誤ったことを言ったのだろうか、とシャーペンを動かす手を止めて目の前の隼総に視線を集中させる。隼総は一拍、間を開けた後に言葉を紡ぎだした。「……俺は存在しないと思っている。本当の意味では、な」何処か含みのある言い方に私は引っ掛かりながらも、かなりショックを受けた。それは、つまり私は友達と思っているけれど、隼総という男は私のことは友達なんかとは微塵にも思っていないということなのか。「つまり私となんか友達じゃねー、って言いたいわけ?」「……、悪意がある言い方だな。泣きそうじゃねぇか」隼総が心を痛めたように、表情を歪めた。誰のせいだ、誰の。と声に出せずに口元を引き締めた。畜生、私はずっと、あんたのこと友達だと思っていたのに!私だけだったのか!



「…………ごめんな。俺、名前が好きだ。だから、俺は友達だなんてこれっぽっちも思ってねぇ」意味を理解したのは、彼の藤色に彩られた唇が私の頬に触れた後だった。


*どうやら、西野空も協力していたみたいです?


「ねぇ、隼総と名前付き合っていないのぉ?ほんとぉ?」昼休みの最中に前々からしつこく何度も聞いてきたことを尋ねる西野空は相変わらずうざい。名前の前でも同じようにしつこく尋ねるので、それはやめてくれ。と奴に頭を下げる勢いで頼んだので名前の前では言わなくなったが。(あんまり言われると実るものも実らなくなるからな)そりゃ名前と付き合いたいって気持ちがないわけじゃないし、下心もいっぱいだ。「付き合っていねぇよ」



いつものように、付き合っていないと返すと西野空は詰まらなさそうに「ふーん、嘘くさー」と呟く。それから、何か閃いたかのように、レンズの向こう側の瞳を少しだけ輝かせた。「あ!わかったぁ。隼総、名前のこと好きなんでしょぉ〜。片思いってやつ。どぉー?図星〜?」「ぶっ!」まさかの、西野空の鋭い考察に俺は耐えきれずに吹き出してしまった。それを西野空は肯定と捉えたらしく、ニヤニヤ笑っている。「……あー、図星なんだぁ。まかせてぇ、今日でよければぁ僕、協力してあげるよー」こんな奴に、協力なんて仰ごうものなら失敗するのが目に見えていると思ったのだが西野空の奴は乗り気らしくてどこか楽しげだった。



「とかいってお前今日、居残りだろうが」三時間目の授業だった数学の宿題を提出しなかった西野空は居残りのはずだ、と俺が努めて平静を保ちながら言ってやると西野空が笑った。「そんなのサボるよぉ。隼総君の恋の成就のためにねぇ〜。僕と名前が二人きりなんて嫌でしょー?あー。僕やさしー。あ、なんか喉渇いたぁ。ジュース奢ってよぉ」西野空が何か言いたげに自動販売機に目をやる。……、こいつ……。サボるのなんて自分のためのくせに、という言葉を呑み込んで俺は財布の中身を確認した。もしも、成功するのであればジュース一本くらいは安いものだ……だが、しかし果たしてうまくいくのだろうか。俺は無言で自販機に小銭を投入した。「あ、百二十円のじゃなくて〜ペットボトルのがいいなぁー」……しかも図々しい。俺は仕方なしに追加の小銭を取り出した。

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