今日も今日とて生きてます



監督命令により、部室に監督の忘れ物を取りに行く羽目になった。“嫌だ”なんて言えるわけもなく二つ返事で引き受けた私。部室をコンコンと一応ノックして「入るからね〜」と言う。「馬鹿っ!くるなっ!」って磯崎君の声と数名の男子の声が聞こえたが、時すでに遅し、部室の扉をあけ放ってしまった。そして、訪れた静寂と動かない時間。



上半身裸のみなさんとご対面。一斉に突き刺さる視線。ガッツリ、皆さんの引き締まった体を見てしまった。慌てて、両手で覆う。隙間から漏れた光に眩んだ。それから、何も見てないからっ!と言いながら後ろを向く。まあ、ガッツリ見ちゃいましたけど。光良君に至っては目があってしまった。……が、嘘でもそういっておく。「……くるなって言ったのに。なんで来るんだよ」磯崎君のぼやく声が聞こえる。そのあとに光良君のまだ、状況を読み込めていない声が聞こえる。「あ?名前?」「はぁ。別に真っ裸というわけじゃないし、見られて困るものなんかないけどな」「確かに。見られて困るものなんかないな」篠山君と毒島君はそこまで気にしていないのか、穏やかな口調だった。よかった、怒っていないっぽい。光良君と磯崎君は怒っているかもしれないけど。



「……見られたの?名前見た?見ちゃった?」光良君がようやく状況を呑み込んだらしく、見た?と尋ねてくる。意外と近くにいるのか気配が近い。背中越しに感じる距離。「見てないよ」「見たよね?見たよね?目が合ったもんなぁ!あははははっ!」……はい、しっかりとこの両の眼で見ました。貴方がたの素晴らしい肉体美を目に焼き付けてしまいました。目の保養になりました。有難う。口が裂けても言えないけど。「せ……にん、とって……」光良君がいつもよりも控えめな声で、何かを言った気がした。


「……うん?」聞き返すと今度ははっきりと聞き取れる、声量で言った。「責任とれ!ふふふ、あははははっ!見たんだろ!俺と付き合え!」責任?!女の子みたいな台詞を言って、私に後ろからタックルをかましてきた。勿論、予想の範囲を大きく上回る行動。私は受け止める体制を取っていなかったため前に倒れこんだ。光良君が全体重をかけて私にのしかかっている。地面に倒れこんでしまった上に、光良君がどいてくれない。どいてくれる気配もない。私は制服を着ているが、光良君はいまだに上半身裸。ぴったり密着していて、肌の体温を感じる。正直、やばい。



「はあああ?!お前!光良ふざけんなよ!」「磯崎うるさいうるさいうるさい」「おい!落ち着け!」「なんでこうなるんだよ。名前大丈夫か……?」皆いつの間にか私との距離が近くなっていて、頭上から声が聞こえてきた。それよりも、誰でもいいから光良君をどかしてくれないだろうか。唯一、毒島君だけが心配して光良君をどかしてくれようともしてくれているが、引っ付いていて離れないらしく、諦めの色がうかがえる。諦めないで!お願い!諦めたらそこで試合終了だよ!「毒島ァ!触んな!あ〜あ。見られるんだったらもっと鍛えておいたのになあ!」「光良、どけ!ふざけんな、死ね!」



磯崎君が光良君を軽く蹴ったのか、私にも衝撃が来た。光良君は激怒している。「ああっ?!磯崎は、篠山にでも責任とってもらえよ!俺は名前がいいんだよ!あはははははっ!」「ちょ、俺?!嫌だよ!磯崎なんて!俺だって名前がいいに決まっているじゃないか!」「てめぇっ!」「やばい、名前悪い、助けられないかもしれない」賑やかになりつつある、頭上から絶望的な声が聞こえてきた。「ぶ、毒島君んんん!君に見捨てられたら私はどうしたらいいの?!」「毒島、俺の名前に馴れ馴れしくするな!」「光良、いいから、どけてやれ。名前が可哀想だろ」毒島君はまだ、見捨てていないらしく私を助けようとなんとか死力を尽くしてくれているようだった。ああ、毒島君。私に君は眩しすぎるよ。「……!名前、重い?ごめんな」ようやく、この状況に気が付いた光良君が私の上からどいた。私はよろよろと立ちあがる。たった十分程度のやり取りでここまで疲労するとは……。光良君はどいたあとも私にべったりくっついて離れない。



「光良、てめぇ……、名前!元はと言えばお前のせいだぞ」磯崎君の言葉が胸に突き刺さる。確かにあの時、私がもう少し返事を待っていれば此処まで話は拗れなかっただろう。「ごもっともです」「そうか?名前に果たしてそこまで非があるのだろうか。俺は光良が悪い気がしてならないけど」「俺も篠山に同意だな……。光良が余計に話を拗れさせている気がする。寧ろ、光良が居なければ事態は此処まで」「うるさいうるさいうるさいうるさい。俺が悪いのかよ!」「お前が一番悪い。お前が責任とかふざけたこと抜かさなければここまでひどくならなかった」「くくっふふふふ!わかった!皆羨ましいんだろ!あははははは、うふふふ!」「あー!そうだよ!!羨ましいに決まってんだろ!俺だって、そりゃ名前に責任とやらをとってもらいてぇよ!」それまで割と良心的で常識的な態度だった毒島君が、叫んだ。周りも毒島君が壊れた。って目で唖然としていた。「羨ましいんだ?!嘘でしょ?!毒島君!落ち着いて!深呼吸して!」「嘘なものか!名前を助ける側じゃなくて俺もやる側になりてぇよ!」「……聞きたくなあああいっ!毒島君からそんな言葉聞きたくない〜!」「煩いっ!俺だって咎められなきゃこういうことしてえよ!」毒島君はもう駄目だ。本当に吹っ切れたらしい。こっちが泣きたいレベルで。できれば何とか修復してほしいのだけれど厳しいだろうか……。私を夜桜君から引っぺがすとギュウと逞しい、胸板に押し付けられた。毒島君のその行動に周りも驚いているのか、絶句していた。



「毒島!!名前を返せっ!」「光良、お前のじゃねぇから。俺のだから!」私はいつから毒島君の物になったんだろう。ていうか、毒島君はもう本当壊れたな。元に戻るのかな?不安だな。「う、羨ましい……」「篠山てめぇもか!お、俺だって羨ましいよ……」どうでもいいけど、誰かなんとかして。一番良心的な人が壊れた時点で誰も助けてくれないし。なんで上半身裸の同級生に抱きしめられなきゃならないんだ。自慢にはなりそうだけど、もう早くなんとかこの状況から脱したい今日この頃。あ、そういえばこの騒動ですっかり頭の隅に追いやられていたけれど、監督の忘れ物、早く届けなくて大丈夫かな?


今日も今日とて生きてます

title リコリスの花束を

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