かぐや姫が浚う



綺麗な月夜の晩だった。真ん丸の月は地上を優しく照らす。月明かりに誘われるようにベランダに二人で腰かけて冷たい、夜風に当たる。風が弱く吹くたびに香宮夜の長い髪の毛が靡いた。見惚れる程に美しい、美貌と白い肌は女にも見紛う程だった。彼は遠くの月を見るたびに「いつか、月へ行きたい」と私に微笑みかけていた。それは、今日も変わることはない。



「月へ、行きたいな」遠くの夜空の星屑には目もくれずに、遠くの一番大きく煌々と照らし続ける月へ手を翳した。指の隙間から漏れる、月明かりに目を細める。「今どき、こんなことを言う俺は馬鹿げていると思うか?」「いいや、そんな大きな夢があるなんて素敵じゃない」所詮、夢は夢だ、と途中で諦めていく人々の中でこれだけ月に憧れ続ける香宮夜は私にとって眩しい存在だった。端麗な顔を僅かに曇らせた香宮夜は私の言葉を聞いて、少しほっとしたような安堵の笑みを湛えた。



「でも、香宮夜が月へ行くと本当に名前の通りかぐや姫だね」「……西野空とかによく馬鹿にされて言われるけど、お前から言われる日が来るなんて」茶化したつもりはあまり、無かったのだけど当の香宮夜は面白くなかったようで冷たくなった手を掴んだ。西野空たちに普段、からかわれているのが主な原因だと思うのだがとんだとばっちりだ。「怒らないで、置いて行かれるのが少し心配なの」香宮夜が月へ行くという夢語りも楽しいし、それが実現するのは私としても嬉しいことだ。だけど、僅かに心の片隅を巣食いわだかまっている。この疼痛は、置いて行かれてそのまま帰ってこないんじゃないかという不安だ。だって、かぐや姫は月へ還る。この汚れた地球になんか戻ってこない。



「なんだ、そんなことか」急に何もかもを把握した様に、元の泰然とした態度に戻った香宮夜が腕を離して私の肩を掴んで引き寄せた。「俺の居場所は月じゃなくて此処だ、それに月へは俺一人じゃなくて、名前と行くんだ」それから、デコボコの月面に足を付けて。月の上からから地球を見下ろして地球は綺麗だって言って二人で、笑うんだ。

かぐや姫が浚う


戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -