人になった神様



!病んだというか、もろい平良さんと妄信的夢主さん


名前は俺をそういう目で見ていない。俺だけが大好きで仕方がなくて。おこがましくも俺が神を自称していたときに慕ってくれたのだ。普通だった俺らが狂った。恐ろしいほどに強大な力を手に入れた。他校に見せ付けた力に、魅せられた様に名前は慕ってきた。名前は俺を見て、転校してきた。といっていた。つまり、名前が好きなのは神としての俺であって俺じゃない。確かに名前は俺以外にこんなことしないし、俺が名前に対して誰かに笑いかけるな、話しかけるな、と言えば必ずそれを守った。それはそう、まるで機械のような良くできた精巧な人形のようだった。俺が命じることは必ず守る。だから、俺が嫉妬することはない。だけど、……だけど、先程も述べたような不安は胸にわだかまっていて、晴れることはない。


「平良様」今だって、ほら。絶対に俺の名前を呼び捨てになどしない。年下とか、年上とか関係なしにそう呼ぶだろう。照美のことだって、神様扱いだ。崇める対象として俺のことを好いているだけにしかすぎない。あああああああ!!!やめてくれやめてくれやめてくれ!!俺は崇められるようなことをしていなかった!!本当は、本当は!!名前に崇められるような人間性ですらない!名前のその心を利用して、名前を束縛して。無茶苦茶な要求を言って欲求をぶつけて、醜く薄汚れたその本性を叩きつけていただけにしか過ぎないというのになぜ、濁っていない俺とは違う別の生き物のような、美しい澄んだ瞳をしているんだ!滑らかなシルクの生地のような、肌に爪を立てた。優美で綺麗な顔を痛みで歪め、俺をその双眸で見つめる。



「愛しているんだ。名前、でも名前は違う。どうして……。どうして」最初は、それはそれはとてもいいものを手に入れたと思った。照美ですら、名前を羨んだ。それくらい、名前は従順だった。俺の言うことに一度も首を横に振ったことはない。俺の期待通りに動く。必ず。本当に機械のような女だった。感情なんかないんじゃないか、とすら思った。俺が死ねといえば、死ぬんじゃないかとすら不安に思った。実際飛べといえば、飛んだだろう。それくらいに俺が神だ、と妄信していた。それがとても恐ろしく感じ俺は無茶なことは言わなくなった。それまで、俺は随分と酷い扱いをしたと思っている。思い出せば思い出すほど頭痛がする、それが愛情に変わるのには然程時間を要さなかった。俺は名前が好きになっていた。気が狂うほどに、愛してしまった。酷いときなんか暴力すら振るった。



そんな自分が恐ろしくもあった。女に手をあげるだ、なんて。自分が自分でなくなるようなそんな錯覚すらしてしまう。ボロボロになった名前をきつく抱きしめては、何度も何度も刷り込むように愛を囁き続けた。名前はボロボロになっても変わらず、俺を清らかな瞳で見つめ続け拳を振るうときに声すら上げなかった。痛みは感じていたはずなのに、変色した皮膚の色は痛々しく紫や赤色に染まっていたのに。我ながら最低なことをしたものだ、と自覚している。名前は何をしても、俺のことを愛しているといってくれなかった。ただの一度も、だ。神様から寵愛されたことをただ、喜んでいるだけに感じられた。そう、俺は崇拝の対象であって、恋人とかではなかった。



名前は俺の、押し付けるような愛の言葉にわけがわからないと。機械が例外のエラーを起こしたように、呆然としていた。俺をじっと見ていた。俺は酷い人間だ。なぁ、名前も本当はそう思っているんだろう?俺から離れないように、いろいろと強要した。俺の腐った人間性を哀れんでいるんだろう?あんなものに手を出していた俺を馬鹿に、しているんだろう?「どうして、そんなに苦しそうなんですか?」わかっているくせに、そうして俺を追い詰めるというのであればそれはまた一種の罰なのかもしれない。侮蔑して、軽蔑して俺の頬をひっぱたくでもしてくれれば目が覚めていたのかもしれない。でも、それをしないで俺を慕い続ける。本当は気がついているんだよな?俺が、神なんかじゃないってことを。



「名前」その癖に、名前のことを離せないでいた。一度、得た幸福を手放すことなんて、俺には出来ないんだ。手放せば永遠に戻らないだろう。籠から、放してしまえば外の世界が余りにも何処までも美しくて自由で、広いから、狭い籠になんか戻ってこない。餌はもらえるけれど、中で飼い殺してしまう。……籠の扉は開いている。俺はそれを教えない。最低な男だ。本当に愛しているのであれば、名前を離してやるべきなのに。離して、やるべきなのに……。「愛している、愛している。何処にも行かないでくれ。俺をゆる、して……」



脆弱な俺を、優しく包み込むように優しく、ただ何よりも優しくあやすように。夢のような、ゆりかごに揺られ安全な場所にでもいるような気分になる。「行きませんよ、私は何処にも行きませんよ。平良様がそれを望めば。私は平良様の何をお許しすればよろしいのですか?」誰よりも、優しく望んだ回答を口にして機械が作り出すような淡い笑み。いつもそうだ。名前は俺の前で笑わない。……俺は名前の本当の笑顔すらも知らない。俺は、自分のことばかりで、名前のことなんか上っ面しかしらない。



だけど、俺は切望していたんだ。名前に愛の言葉を囁いてほしい、と。なんて、おこがましいんだろう。どれだけ名前を痛めつけ、酷いことをしたのか、忘れたのか?全てを承知の上で、名前からも愛を求めるなど!救えない、あまりにも罪深い。名前をどんなに愛していても届かない。聞こえない。わからない。

人間になった神はどんなに足掻いても、閉ざされた女の心に近づくことはできなかった。

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