彼女を贔屓して何が悪い!



「喜多〜」「一番〜……」
西野空と、愛しい名前が困ったような顔をして俺の席までやってきた。俺はなんとなく二人の言いたいことがわかっていた。もういつものことだから、予測はつく。
「……また、宿題を二人そろって忘れたのか」
俺が言うと名前は少しだけ驚いたような表情をして「よくわかったねぇ!」と感心していた。西野空は対照的に「そりゃ、そうでしょう。毎回忘れているじゃん、僕ら」と呆れたような人を小ばかにしたような顔をしていた。俺は二人を交互に視線を向けた後にファイルに挟まっていたプリントを取り出して、名前に手渡した。



「名前早く写して、返すんだぞ」
「やった!有難う!一番、大好きっ!」
調子がいいなと思いつつも、はしゃぐ名前が可愛くて自然と口元が緩んでいく。西野空がそのやり取りを面白くなさそうに見ていたのに、気がついて俺は口元を引き締める。
「……じゃ、名前〜写し終わったら次、僕に貸してね」
「西野空、お前は駄目だ」
俺が間を開けずに、貸さない。と言うと薄いレンズ越しの瞳が、少しだけ歪められた。不愉快だ、と訴えかけていた。すぐに言葉が出てくる。
「はぁ?何で僕は駄目なわけ?」
「お前は駄目だ」
俺がもう一度言うと「意味わかんないし。それ差別じゃん、贔屓じゃん」とぼやき口を尖らせる。



「それは……、人間だから多少、差別や贔屓はある」
悪びれもなく言うと西野空は納得がいかないのか、なおも俺に抗議を続ける。なんとしてでも借りたいのだろう。
「……喜多ぁ……それ多少じゃないし。いいじゃん、けちけちしないで、貸してよケチ。意地悪なことしていると、名前に嫌われるよぉ?」
名前という単語に動揺し体がピクリと僅かに反応を示した。西野空がそれを見逃すはずも無く追い討ちをかけようとする。隣の机でせっせと必死に写している名前に話しかける。
「名前もやだよねぇ?ケチで糞真面目で意地悪なデコ」
いくつか増えている俺へ向けられたのであろう、罵詈雑言にいらだちながら、不安げに名前に視線を向ける。西野空に貸さないことで、本当に嫌われたらどうしよう。……名前に嫌われるようなら貸そう……。



「え?デコ……?よくわかんないけど、一番は好きだよ?だって、優しいじゃん」
俺に極上の笑顔を向けて言ってくれた。ああ、よかった。俺も名前が大好きだ。
「それは名前が特別に贔屓されているからだよ〜……。僕みたいなのだと喜多は意地悪して貸してくれないからさぁ」
「……お前は可愛げが無いからな。汚して返すし……」
というか、俺の彼女を贔屓して何が悪いんだ。名前の悲しむ顔は見たくないし、優しくしたくなるのは仕方が無いだろう。もう、西野空にだけは絶対に貸さないから。


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