最後の衛星に口づけを



本当に、不謹慎です。嫌な気分になれます。
明るいほうはこちら


「明日さ、晴れるかなぁ」突然、名前が窓の外の夜空を見て呟いた。心が酷く落ち着いていた。平穏だ、と思った。幸せやそういうものとは違う。「……さあ、な。天気予報見るか?」俺がテレビのリモコンに手をかけようとすれば、無言で名前が首を振って制した。見なくていい、とのことらしい。「……そう、だな。俺たちに明日の天気は関係ない、か」明日は日曜日。恐らくは大半の人は、学校や仕事が休みの日だ。勿論、社会人の人ならば……仕事だーっていう人もいるだろうけれど。俺たちは生憎、学生だ。明日授業参観があるわけでもなく、特別な日でもない。ゴロゴロと体を休めていい日だ。



「……英聖は怖くなった?やめてもいいんだよ?私一人でもいいの」……意味深に名前が微笑んだ。名前の心も穏やかに澄み渡っているのだろうか、何処か吹っ切れたような瞳を儚げに細めて見せた。「ばーか。怖い物なんかあるかよ。やめねーよ。お前を……一人になんかさせねぇ……」「そっか、有難う。英聖は強いんだね。私は怖いもの沢山あるよ。でもね、私……今、幸せなんだ」俺の体に強く抱き着いた。名前の体を抱きしめ返せば愛しさが増した。「……そうかよ。じゃあ、俺が怖いもの全部引き受けてやるよ」怖がりの彼女はいつも、怖い怖いと言っていた。この世界が怖いと言っていた、人も、物も、動物も、植物も。害をなすものすべてが、恐怖の対象であった。俺はそんな名前に優しくない世界の中で唯一、名前に優しくありたいと願い、また愛し、愛されたいと思い続けた。



「英聖は優しすぎるよ」「……お前限定だ」本当は優しくなんかないのに、名前はいつもいつも、俺を優しいっていう。だから、俺は名前を甘やかせて優しくしてやりたくなる。「……英聖、英聖、大好き」「俺も……愛しているよ」「うん」最後に、小さく頷き触れるだけのキスをしてから俺から離れた。それから、ぶら下がっている縄に手をかけた。ギィ、と縄が軋んだ。丈夫に括り付けてある縄は多分名前の体重も俺の体重も支えてくれるだろう。万が一、失敗しても俺は名前といるだろう。



「……きっと、明日は晴れるね」「……なあ、さっきも聞いたけど、どういう意味だよ」問いかければ、名前は愛らしい笑顔を浮かべて、自分で考えて。と笑った。もう、考える猶予もないのに……ひでぇ話だよ。答えをくれねぇなんて、さ。少しもやもやするじゃねーか。ああ、でも明日が晴れでも雨でも、人類が滅亡しても俺らには関係のない話だな。俺も縄に手をかけた。

最後の衛星に口づけを


戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -