特効薬彼女



部活が始まった時から、光良の様子が可笑しかった。可笑しかったというか、自然現象なのだが、部活時からずーっとしゃっくりが止まらないようで、ヒックヒックと上下に肩を揺らしている。化身ピューリムもしゃっくりのせいで気が散り、出せないようで困り顔で俺に「ック、悪い……!ヒック、ピューリム出せないっ……!ヒック。止まらね!」と、いつもの馬鹿笑いをせずに真剣な様子で、困り果てていた。同じシードである、篠山も「……光良が嘘ついているようにも思えないし……本気で困っているようだぞ……どうする?」とボールを片手にゴールを離れた。



確かにこのままでは、まったく練習にならない。仕方なしに、部員全員に「一時、休憩だ!」と声を張り上げた。それを聞いて皆はグラウンドから出て、散り散りになる。本来ならばもっと、練習したいところだけど、そうも言っていられない。一時、休憩と言ったのが光良の彼女である苗字にも聞こえたのか、それとも光良の様子が可笑しいことに気が付いたのか、俺たちの元へ駆け寄ってきた。「夜桜、大丈夫?しゃっくり、まだ止まっていなかったんだ……?」苗字の言葉に首を少し傾げると僅かに表情を曇らせた苗字が俺に対していった。「……実は、練習始まる以前から止まらないみたいで……」「……ック、ヒック……。うー!あー!イライラ……ヒック!するうう!」光良もこの自然現象に段々と腹が立ってきたのか、ドン、と地団駄踏むように地面を蹴る。苗字が宥めて、落ち着かせてくれているが、いつこっちに火の粉がかかるかわかったものじゃない。



篠山が、あまり光良とは関わり合いになりたくないといった様子で口を開く。俺だって、出来ることならいつ、ブチ切れるかわからない光良なんかと関わりたくない。「……お、おい。あんまりイライラするなよ……。うーん、しゃっくりといえば、水を飲む、とか?」「……成る程な。おい、ドリンク飲め!早く止めろ!」俺が、怒鳴るように言うと苗字が光良にドリンクを手渡した。光良は、眉を顰めながらドリンクを口に含んで一気に飲む。ゴボゴボ気泡が上がり、喉を鳴らす。ベコッとペットボトルが少し潰れたのを合図に光良が口を離した。「ぷぁっ……。止まったか?!……ヒック」「駄目だったね」「あああっ!!」光良が相当イラついているのか、シニヨンが崩れるのも気にせずに頭を掻きむしる。イラつきたいのはこっちだ。畜生。



「……おい、光良」「なんだよォ!!磯崎ぃ!」「わっ!!」「…………ヒック。頭に虫でも沸いたのかぁ?!ヒック!」折角、驚かせて止めてやろうと思ったのに。何だよ、こいつ。頭に虫って失礼じゃねぇか!しかも、効果なし。俺が恥ずかしい思いをするだけとは……。篠山も、若干引いているのか、口元をひきつらせていた。あとで、まとめて処刑してやる。絶望しろ!「ねぇ磯崎君、篠山君。私が挑戦してみていい?」今まで黙って俺たちの失敗を見ていた苗字が口を出した。「うん……?俺は構わないけど……。な、磯崎?」「俺も構わねぇぜ。ま、期待はしねぇからやるだけやってみろ」と、篠山と一緒になって了承の意を苗字に告げた。



苗字がどこか少しだけ緊張した面持ちで光良を呼ぶ。「ヒック、なぁに?名前」不機嫌なのは変わらないのだけど、流石彼女というべきか。光良は俺たちに対する態度よりも優しい表情を浮かべる。……、その五分の一でいいから他の奴らにも優しくしてやってほしいものだな。なんて、ぼんやり思っていたら苗字が行き成り何の前触れもなく、光良の腕を掴んで、光良の唇を塞いだ。手とかじゃなくて、唇で。「……っ!?」「……うお!み、見ていていいのか?!これ!」隣で事の成り行きを見守っていた篠山も驚いたのか興奮した様子で、いいの?いいの?!と俺にしきりに尋ねてくる。俺だって、どうしたらいいかなんてわからねぇよ!「……黙れっ!」と、一喝して目のやり場に困る……と目を逸らした。篠山も、俺に合わせて逸らした。



気まずい時間はとても、長く感じられた。下手な話、試合の時間よりも…授業よりもある意味苦痛だった。やっと終わったのか苗字が光良を解放した。「どう?止まった?」苗字の声につられて、俺と篠山も顔をあげて光良を不安げに見つめる。「…………と、止まったあっ!アッハハハハハハハハ!名前有難う!大好きっ!」効果覿面!しゃっくりは止まったらしく光良がきゃっきゃっ笑いながら苗字に有難う!と抱き着く。俺と篠山が顔を見合わせて、なんで止まったんだ?と首を傾げていたら苗字がクスクス笑いしながら答えた。「夜桜を驚かせたのと……あと、息を止めさせたの」「……!あ、ああ。なるほど。行き成りどうしたのかと思った……」ついさっきまで、興奮していた篠山らしくない声で納得いった……と呟いた。俺も少し納得しながら力をゆっくりと抜いた。恐ろしい光良のしゃっくり騒動はこうして誰にも火の粉がかかることなく、平和に(?)幕を閉じた。


*これで止まるなんて管理人は無責任なこと言いません

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