死を恐れた少年



!超ネガティブ速水君。



死が怖かった。死んだ後の世界なんて誰にもわからないし、何よりいつ死ぬかがわからなくて俺は本当に怖かった。急に明日、世界が滅びるとかそこまで酷い妄想はしたことはあまりないけれど、明日急に俺は車に撥ねられて死ぬかもしれない、いや、若しかしたら殺人鬼に後ろから刺されて絶命するかもしれない。友達に言えば友達は笑って「そんなの確立、無茶苦茶低いから安心しろよ」と俺の背中をバシバシ強く叩いた。確かに友人の言うように確立はかなり、低いだろう。……仮に、そういう意味で死なずに生きながらえたとしても、俺はいつか一人で死ぬんじゃないか、孤独死して誰にも見取られないんじゃないかという別の不安が沸いて出てくる。結局、俺の不安なんて誰にもわからなかった。彼女にも言おうと思ったことはあるけれど、俺は別のネガティブがよぎっていた。


これを言ったら彼女に余計幻滅されるのではないか、という不安だった。俺は元々明るくなんか無いし、名前は俺になんか勿体無いくらい、いい彼女で本当どうして名前が俺といてくれるのかわからない。俺にとりえなんかないし。精々足がちょっと、速いくらい。
「はぁ……」
「どうしたの、ため息ついて。また、悩み事?」
「あ、その……いえ、」
俺が口ごもりながら指をいじいじと弄ぶ、視線を逸らすと名前が俺の話を聞きだそうと身を乗り出してきた。ああ、ため息なんかつくんじゃなかった。



「ほら、言ってごらん。鶴正がそんな不安そうだとこっちが不安だよ」
優しい声音で、俺に言ってごらんと諭してくる。「あ……う……」とか言葉にならない言葉も次第に形を作り出して結局は、俺の口からネガティブな言葉となって零れていった。
「不安なんですぅ……。俺が、最後……誰にも見取られずに、孤独死しちゃうんじゃないかって……」
顔を上げずに、名前のことを視界に入れる。名前はそんな俺を不思議そうな顔で見ていたが、やがて「あー……」と一度だけ、言って口ごもってしまった。ああ、やってしまった。いうんじゃなかった。絶対に嫌われた。俺は一瞬のうちに全てを悟って直ぐに謝った。これ以上名前に嫌われたくは無かった。


「あ、あ……ご、ごめんなさい。忘れてください……今の」
そういって俺は、名前から少しだけ距離を離そうとした。が、名前に腕をつかまれてしまった。それを振り払う勇気もない俺はその場に、踏みとどまってしまった。
「何を謝っているの?」
優美な笑顔を浮かべて、俺の馬鹿馬鹿しい陰鬱な妄想の答えを導き出してくれたのだ。
「大丈夫よ」
魔法の言葉と共に吐き出される、吐息。俺の上ずった声は、遠くに感じる。俺の虚飾に塗れた体を包み込んでまた、囁いた。
「大丈夫。鶴正のこと好きだから、鶴正を一人になんかさせないよ。もし鶴正が望むのならば、一緒に死んであげる」



相変わらず毅然とした態度で、俺にそう告げた。たとえそれが、俺を安堵させるための嘘であっても、俺はそれに救われた。これは変えようの無い事実だった。俺は震える腕を名前に回して、名前に上ずった声で言った。「じゃ、じゃあ、名前が死んだら俺も一緒に死んであげますぅ」って。名前は緩やかに微笑んで「有難う」とだけ、言った。俺から孤独死の恐怖が消えうせた日。



死を恐れた少年


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