それいけ!毒島君!



がんばれ!毒島君!に続く。


「毒島って変わった苗字だよねぇ……」急に何を思ったのか、名前は急に変なことを言い出す傾向がある。光良ほど変わったやつだとは思っていないが、名前も大概だと思う。万能坂はそこまで変わった奴はいねぇと思っていたけど。「お前は全国の毒島さんに謝れ。土下座しろ」「全国の兼真以外の毒島さんごめんなさい」土下座は流石にないが、少しだけ恭しく名前が謝った。ただし、俺を除いてらしい。「俺には?!」「兼真には悪いとは思っていないから、心の籠っていない謝罪なんてむかつくだけでしょ?」



一見、正論を言っているように思えるのが余計に腹立つ。「お前も毒島にしてやるぞ、てめぇ」「えー。毒島とか毒々しい苗字は……ちょっと……」素で返してきやがった。可愛げのないやつめ。そんな奴が好きな俺も終わっているな……。「うるせぇ!なんだよ、毒々しいって!失礼にも程があるだろうが!もっと違う反応しろよ!俺が恥ずかしいだろうが!」「私に何を期待しているの、ブス」俺の小学校時代の酷いあだ名を口にする。今でも、俺のことをそういう人間がいるが本当気に食わない。これが、名前じゃなかったら本気で締めてやるところなんだが。「お前俺の傷口抉って、塩塗るの楽しいか……?お前じゃなかったら殴っているぞ……」



名前だから手を出さない、ということに気が付いてほしいところだ。「まぁまぁ。でも、兼真、顔面偏差値は低くないから、ブスっていうのは間違っていると思うんだ、私」「……が、がんめんへんさち?」聞き馴染みの無い言葉に首を捻ると、名前が言い直した。「兼真は割と顔整っているから、ブスっていうと本当にブスの人が可哀想ってことだよ。女子人気割と高いしね、兼真」要するに、俺の自惚れではない限り名前の言葉を訳すと、俺は不細工とかではないといいたいらしい。多分。名前語は難しいから、多分の域を脱せないのだが。「ふぅーん……。名前も、その……そう思っているのか?」「そうだね〜……」



考え込むような仕草を見せた後に、ピタリと俺の頬に名前が手を添えた。じっと俺を品定めするような目で見つめた後に僅かに頷く。なんだこのシチュエーション。何かの弾みでキスができそうな距離だ。「思うよ。兼真、格好いいと思う」「……っ。あ、あのなぁ……お前、顔近づけんな、まじで」まさかの台詞とこの息のかかる距離はやばい、と言葉を殺して俺が理性でそういいながら顔をそむけた。なのに、名前は俺の気を知らずに余計に近づけやがる。「ふへへ、兼真の嫌がる顔は、貴重だぜ……!うりうり〜、嫌がれ嫌がれ〜」「おまっ、それ以上近づいたら押し倒すぞ!」半分本気でそういうと、ドン引きですって顔して身を引いた。……展開、おかしい。俺のときめき返せ。此処はちゅーの一つ二つあるものだろ、普通。「ブスは、性格と趣味悪いね!」「……はぁ。やる気失せた。もういい」



「大体、私も毒島になったら顔面偏差値高くないから虐められちゃうでしょ。顔面格差社会の恐怖だよ」「顔面偏差値こえー」抑揚のない声で言うと名前が何かを思いついたような様子で、表情を明るくさせた。「そうだ、兼真が……苗字になればいいんじゃない?あら、やだ、名案。兼真が嫁に来るといい」俺が嫁かよ。なんか突っ込む気が失せてくるような話だ。なんで俺が嫁なんだよ……。名案と言うか、妙案と言うか……。「お前なんか苛められちまえ」「……わかった、顔面じゃなくて性格がブスなんだ……。ひどすぎる」「くたばれ。お前の顔面偏差値が低かったら、俺がブス専ってことになるじゃねぇか。ふざけんな」「……ブス専だったんだ。うっわ……、世界は広いなー。あ。夜桜ちゃんにメールしていい?」名前がポケットをまさぐったかと思いきや、少しだけ傷のついた携帯を取り出して何かを高速で打ち込みだした。



光良に何て送るつもりだと、携帯を覗き込めば「兼真が、ブス専だった。私……どうしたらいいかな、夜桜ちゃん」って書いてあった。頭おかしい。俺はキャンセル連打で、それを阻止した。んなの送った日には明日光良のやつに「あはっ!お前、そういう趣味なんだぁ!あーははははっ!」とか爆笑されるに決まっている。「なんで、光良……、って何書いているんだよ!お前は、俺がブス專でいいのかよ!」「……イケメンは、美女を食い荒らして美女に飽きてしまった。どう?」お前のその妄想何とかしろ。「やばい……。食い荒らした覚えがねぇ」「あ、記憶そうしt「だまんねーとちゅーすんぞ」「黙ります」一瞬で黙りやがった。俺はこいつの中でどんな位置なんだろう。不安になってきた。「そういえば、お前と光良は仲がいいな。そんなに気ぃ合うか……?」「どうだろ。ちょっと不安定だけど悪い子じゃないじゃん」「……あいつと気が合う奴なんてそうそういない気がするんだけど」



「まー、でも夜桜ちゃん顔面偏差値はかなり高いから、周りが放っておかないでしょ」「出た、恐怖の顔面偏差値。磯崎に言っちゃろ。お前の顔面偏差値低いって名前が言っていたぞーって」「磯崎君は顔面偏差値高いでしょ。なんで、そう怖そうな相手に密告するの。捏造しないで」「いや。少し痛い目見てもらおうと思って。前々から思っていたけどお前のストライクゾーン広いな。っていうか磯崎が怖いって……。そのこと密告していいか?」名前にそういうと顔面蒼白の名前がブンブンと必死に首を横に振った。少し可哀想だ、と思えるくらいだ。そんなに磯崎が怖いか。一つ面白いこと知ってしまった。これから弄れるネタの一つに磯崎、が追加された。「やめて!まだ、死にたくない!校舎裏に色気もなく呼び出されてボコられて、次の日に川に流されるんだ……!そうに決まっている!」お前は磯崎をなんだと思っているんだと問い詰めたい。が、普段の素行を見ていると本気でそんなことが起こりそうで俺は怖い。



「わーった、わーった。密告はしねーよ」
その代り、将来お前も毒島な。

あら?


「お前、名前と付き合っていたんだってなぁ〜!あっは。お前、死にたいの?ねぇ?なんとかいえよぉ!裏切り者ォ!」どす黒いオーラが渦巻く発狂した光良と、なんだか少しショックを受けたというような、傷ついたというような表情をしている磯崎。俺に詰め寄ってくる磯崎には必死さが伝わってくる。なんで、そんなに必死なんだよ。目は血走っているし、本当、気持ち悪い。「名前が俺のこと怖いって言っていたのは本当か?なぁ、おい。なんとかいえよ、毒島あああっ!俺のどこが怖いのか聞いてこい!今すぐに!俺はボコったりしないって言ってこい!寧ろ優しさに満ち溢れていると言え!!」「……!!なんで情報が漏洩しているんだよぉ!ていうか、磯崎!なんで俺が大嘘吹き込まなきゃいけないんだよ!」



流石に惚れた子に、そんな大嘘を刷り込むほど俺は外道じゃない。ていうか、こいつら、俺の恋路を邪魔しやがって!本当ろくでもねぇ奴ら!

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