追いかける



図書室の椅子に腰掛けながら、読みかけの本を読みすすめていた。独特の世界観に引き込まれて、ただ読み続けていたら急に誰かが走るようなバタバタと耳障りな音と共に視界が塞がれた。真っ暗、いや、よく見れば指の隙間から光が差し込んでいる。
「あっははは!だーれだっ!」
この口調、そしてこの笑い声。誰か、なんてすぐにわかる。走ってきたのに息が乱れていないところは流石というべきか。というか、図書室では静かにしろと、あれほど前に注意したのに。忘れてしまったのだろうか。普段、私の後をつけてくる彼はとても可愛いので、たまに姿をくらまして困らせてみたりその様子を観察してみたいという、欲望に駆られ姿をくらませてみたのだが、ものの数分で見つけられてしまった。彼には私を見つける才能があるらしい。



「……夜桜」
「きゃははは、せいか〜い!」
呟くとパッと私の目を覆っていた、色白の手が離された。見慣れた景色が取り戻された。私は数度、瞬きをしてその後に夜桜を見上げた、キャッキャと楽しげに笑顔を作る夜桜が目に入って私は「静かにね」と夜桜の口を手でふさいだ。夜桜は好きだけど、注目を浴びるのは好きではない。夜桜は「はぁーい」とニコニコと笑いながら素直に聞き入れる。それから、私の隣の椅子を引いて座って私を眺める。私なんか見ていても面白くないと思うのだけど、夜桜はよく私の動きを観察している。


「夜桜も何か読めば?」
と、意地悪半分に、私が言うと夜桜は首を横に振った。
「あはは、俺はいーよ。名前のこと見ているから」
と、だけ言って頬杖をつきながら何が楽しいのかわからないが、笑顔で私のことをいつものように観察していた。穴が開きそうなほどにジッと見られて、真剣に本など読めるわけもなく私は、栞を挟んで本を置いた。元々、本を読みに来たというよりは、夜桜を困らせたかっただけなので、もう目標は達成できていた。夜桜はそんな私を見て「どーしたの?」と、どこか不思議そうに首をかしげていた。原因の少しは夜桜の存在なのだが、可愛らしい仕草に胸をやられた私はそんなことを言えるわけもなくただ「飽きたの」と、適当にもっともらしい言葉を並べた。



椅子から離れて夜桜から離れると、夜桜がぴょこぴょこと追いかけてくる。座って待っていれば?というと夜桜は「名前と居たいからいいのー」と笑う。何、この子。私を殺したいの?殺人鬼なの?この場合の死因は何なの?めまいを覚えながら、図書委員にこれを借りていくから、とだけ本を見せて告げる。図書委員の大人しそうな女の子は私と夜桜を見て微笑ましげに頬を緩ませた後に「どうぞ。カードに書いておきますね」とだけ、言って私の本を見た後に何かを書きこんだ。それを見届けた後に私は図書室を出る。相変わらず私の背中を追いかけ続けている夜桜に向き直る。



「もう、静かにしなくていいよ」
夜桜は図書室を出て、その言葉を聞いた途端に遵守していた夜桜が急にまくし立てるように私に話しかけてきた。
「あははは、あのね、今日名前が教室に居なかったから俺、ずーっと探していたんだ、ふふふ、だって名前たまに居なくなっちゃうんだもの。俺、寂しかった。あは、でもね、名前図書室好きだから、俺此処かなって思ってね。俺名前大好きだよ、居なくなっちゃやだ。名前が居ない時間なんて詰まんない」
此処が廊下なのを忘れているかのように私に抱きつきながら、何度も何度も寂しかったって言う。私は夜桜の背を撫でて、ごめんね。って謝る。ああ、でも夜桜が可愛いから、つい、ね。気持ちはわかって欲しい。夜桜は可愛いんだもの。



「俺、名前が言うなら、いい子にするよ。何処にも行かないで、消えないで」
笑い声が途絶えた中で聞こえるか細く、消えてしまいそうな声はあまりにも愛しい。抱きしめる白い腕をそのままに、安心させるように私も抱きしめる。本当はいい子なんかじゃなくても、行動が可愛くなくても、夜桜が好きなのにね。


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