空白の名前欄に



!学年が判明するよりも前にUPした作品です。ご了承を。



小テストの回収を先生がすると告げた。時計に目配りをすれば、もう三時間目の授業も終わりに近づいているようだった。後ろの席から順々に前の人に渡していき、最終的に先生の手にいきわたるというこの画期的なシステムは我がクラスでも採用されている。私は前の席の宵一に小テストの紙を手渡した。宵一は、けだるそうに少しだけ空欄のある紙を受け取った。それからすぐに宵一の「あ」という小さなつぶやきが聞こえてきた。どうしたのか、と尋ねると宵一は「名前〜、名前書き忘れているよぉ〜。これじゃ点数つかないよ」と言ってきた。



……どうやら、名前を書くのを忘れていたらしい。名前を書かなければ問答無用で点数はつかないのだ。私が慌てて宵一に小テストの紙を返してくれるように頼んだのだが宵一は「いーよぉ、僕が書いておいてあげる〜」と相変わらずの調子で、返してくれなかった。「……有難う……?」「いえいえ〜」お礼を言った後に、僅かな違和感が生じている自分に気が付いた。……なんだろう?何が可笑しいのか自分でもさっぱりわからないのだが……。うーん、と首を捻りながら思考の海におぼれていたら、ふ、と違和感の正体に気が付いた。


……宵一が優しい……?気が利く……?喜多君じゃあるまい。宵一は無償で動く男じゃないのは知っているし、何より優しいときは大抵奴の場合は裏がある。「宵一?!何かしでかそうとしてない?!」宵一の席のほうに身を乗り出しながら、私の小テストの名前の欄に目を見やった。「え〜?親切に書いてあげている人に対して、それはないんじゃない〜?」私の名前の欄の所に「西野空名前」と私の字とはまるで大違いな汚い字が綴られていた。慌てて消すように言うと宵一が口を尖らせた。「えー……折角書いたのにぃ」「馬鹿っ!そんなもの提出できるわけがないでしょ!」「いいじゃん〜……どうせ、近い将来同じ苗字なんだからぁ」



馬鹿なことを悪びれもなく言っている宵一にもういいからさっさと私に小テストの紙を返せ!と突っかかっていたら西野空の一個前の席の隼総が、我慢の限界に達したのか振り向きざまにキッと鋭く私たちを睨みつけた。流石に怒った隼総は迫力がある。「おい!馬鹿やってないでさっさとよこせ!時間ねぇんだから!」私はひるんでしまったのだが、宵一は平気なのか相変わらずけだるそうにしながら「はいはい〜。そうだねぇ」と言って、私の小テストの紙をそのまま修正もせずに前の隼総に渡してしまった。なんてこった。あのまま、出す羽目になるとは…。と羞恥心と、私の点数がどうなってしまうか、という恐怖に項垂れた。

おまけの後日…?


「隼総ああああっ!!あんた!これどういうことよ!」本日返却された、あの恥ずかしい小テスト。点数はまぁまぁってところ……ってそれは今は関係がない。問題はあの名前の欄の部分だ。西野空も返ってくる前までは、ニヤニヤしていたのだが(私はげんなりしていたが。)、返却された私のテストを見て二人して凍り付いてしまった。それもそのはずだ、あの西野空名前と書いてあった部分が修正されていて、宵一より幾分か綺麗な整った文字で隼総名前と書いてあったのだから。明らかに隼総の字であり、奴の仕業である。



「……あ……?あー。西野空の字があまりにも汚ねぇから俺が書き直しておいてやった」悪びれもなく言う隼総。喜多君の次あたりに常識的だと信じていたのに、裏切られた気分だ。「ははははっ。修正するなら苗字って書いてくれないかなぁ……?」「……別にいいんじゃねぇか?隼総名前でも。先生も点数くれたみたいだしよ」確かに今回は先生の御慈悲により、点数はもらえることになったのだが……私があまりにも不憫だったからだろう。先生も苦労しているんだな……って目で見ていたし。「よくないしぃ……。隼総、余計なことしないでくれるぅ?僕の名前とらないでよぉ」「……いつから名前は、お前の所有物になったんだ?どうせ、お前が付きまとっているだけだろ」やばい、言い争いになりそうだ。という予感は見事に的中。宵一が挑発に乗ってしまった。「はぁ?僕と名前は相思相愛なんだよぉ」「その台詞、もう一回言ってみろよ。嘘つくんじゃねぇよ」「……はぁ……」今日も天河原は平和です。多分……。できれば、私も平和に生きたいんだけどな。

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