スーサイドシンドローム



!不謹慎。タイトルの通りの感じです。
死にゆく体躯


今日のニュースです、と始まる女性ニュースキャストの話は聞き飽きたような自殺のお話。最近は若い世代を中心に自殺が流行っているらしい。それも、集団自殺が急激に増えているらしい。この間も、目の前で手を固く繋いだ女子三人が、電車が来たのと同時に飛び降りた。赤信号、皆で渡れば怖くないということなのだろうか。勿論、死んだ。


もともと全体的にこの国は病んでいた、が……最近は以前にも増して自殺が多い。だから流行っているというのは、大げさな表現なんかではない。温くなって少しだけ炭酸の抜けたコーラを口にして、飲み込む。シュワシュワとした炭酸独特の感覚が喉を通りぬけていく。名前が僕から、コーラのペットボトルを取り上げた。躊躇いもなく口にする。ごくごくと喉を通っていく。少しだけ重みのなくなった、ペットボトルを僕に返す。



「まずい」返された黒い飲み物を全て飲み干す。なんだか、物に味がなくなった。無くなったというのは、多分気のせいで物には味があるんだろうけれど、味覚が、知覚、触覚、……すべての感情が麻痺していて何も感じられない。僕らはまだ中学生で、全然世の中のことなんか知らない。「それより、身辺整理はできた?宵一」名前も同じなのだろうか。飲み終わったペットボトルをべっこりと潰して僕は床に投げた。「出来ているよぉ」



人生に嫌気がさした、というと大げさに聞こえる。身辺整理……といったって、遺書は書かなかったし、アルバムとか僕の生きた証を燃やしただけだ。名前が小さな肩から下げる鞄を手にして玄関に行っているね。と僕から離れていった。そういえば、死に方はどうするんだっけ?溺死?凍死?首吊り?飛び降り?名前にその辺は任せておいたのだけど。ま、……なんだっていいや。名前と一緒ならば。



最初に自殺を提案したのは名前のほうだった。僕よりも名前は重傷だった。自殺未遂はもう三度していた。そんな彼女が僕の恋人だった。世界全体が病んでいた。僕もまた、その一人にすぎやしないのに。みんな何らかの形で精神を患い、どこかがおかしい。認められずに足掻く人間もいる。が、僕は違う。……名前と僕は終わりを選んだんだ。名前が久しぶりに笑って見せた。下を見ればめまいがするほどに高い。断崖絶壁になっていた。ここから身を投げれば多分一発でいけるだろう。「方法はいろいろ考えたけど、やっぱり確実性がないとね。首吊りでもいいけど……宵一と一緒に死にたいし」「ふぅーん……。それならビルとかアパートとかから飛んでもいいんじゃない?」と僕が疑問に思って、言うと名前が少しだけ顔をしかめて「駄目だよ。見つかっちゃうじゃない。誰にも見つからずに、二人だけで」と僕の手のひらを握った。少しだけ汗ばんだ指先が絡まった。下を見れば、波が僕たちに手招きをしている。せかさないでよぉ。



所詮、僕たちも流行に流されるただの、年若い恋人にすぎやしない。これが究極の愛の形だといわれるのならば。僕は、それを受け入れようと思う。味のなくなったご飯も、美しくなくなった灰色の景色も、面白くもない日常も。……ただ、一人永遠に変わらない存在、名前。僕は好きだ。「死ぬときは一緒だよ」「……、当たりまえじゃん。だから、笑ってよ」僕の好きな名前の笑顔で彩ってほしい。最後の幕引きは名前で、さようなら。


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