咎人



!ヒロインが非道。茜←ヒロイン←神童で。



私は最低最悪の人間だ。中学生で此処まで極悪非道なことを出来る人間は中々珍しいだろう。私には好きな女の子が居た。その子は神童のことを“しんさま”と呼んで、よく写真を撮っていた子だった。好きといってもそれは、友達としてではなかった。最低なことをしたと思っている。思うだけにしておけばよかったのに私は二人に対してとてもひどいことをしたのだ。つい先日に神童は私を好きだと言ってきた。最初は断るつもりだった。……御曹司だし価値観も合わないだろう。何より、彼女の好きな人が神童だということを私は知っていた。いつも茜のそばにいる友人だからこそ、わかっていた。私を「好きだ」といった彼は涙を一杯に溜めていて、必死な感じがひしひし伝わってきた。彼はメンタルが弱いようだった。男の子を好きになったことが無いわけでないが、もっとどっしり構えている安定した人が好きだったからどの道タイプじゃなかった。大体今、私の心を支配しているのは、茜だ。だから、こんな奴の告白なんかに心は揺れない。



……だけど、茜の心はこの憎い神童とかいう男が奪った。だから、振ってやろうと思った。盛大に。大嫌いだ、私から茜を奪う奴なんて。私がこいつに抱いていた感情は憎悪だった。なのに……思ってしまった。“……神童と付き合えば、神童に茜はとられない。”そんな、邪心。よせばいいのに「…………神童。いいよ、付き合おうか」などといってしまった。



作った、茜にむける笑顔とは違う私の笑顔に神童がパアと顔を輝かせた。そんな神童に罪悪感が沸いた。「ごめん、今の無かったことにしよう」って直ぐに言うべきだった。その時はそんなこと微塵にも思っていなかったし、これが最善だと思った。茜をとられないと内心喜んでいた。好きでもないのに、そんなこと言った。神童はそれでも喜んでいた。今になって生み出された罪悪感。……罪悪感は、消えなかった。二人に罪はなかった。茜はただ、純粋に神童を好きだった。そして、神童もまた、純粋だった。……私は醜く、薄汚れていた。




夕暮れ色に染まる、教室の中で私は許しを請うように何度も何度も繰り返していた。
「……ごめんなさい。ごめんなさい……」
謝っても、謝っても許されないだろう。神童にも茜にも、だ。私は神童と別れようと思っていた。付き合って、そばにいて私は気がついたら、神童のことが好きになっていた。勿論、茜が好きだから……友人としてだけど。それでも、神童を憎いと思うことは無くなった。目の前で暗い目をした、神童の肩を掴んでボロボロ泣きながら謝っていた。神童のほうも泣きそうだった。
「神童、別れよう。私は貴方が、好きではなかった。私は……好きな人の幸せも祈れないような最低な人間だ。神童に好きになってもらえるような、人間じゃない。ごめんなさい、神童ごめんなさい……茜……」



薄汚い私の涙が、神童の袖を濡らしてしまったことに、私は神童の肩を離した。すぐに神童が私の手首を掴んだ。ピアノをやっている、細くて長い指が私の手首に絡まる。
「嫌だ……。そんなこと言わないでくれ。俺は、名前が好きだ。名前が本当は俺のことを好きじゃないこと、気がついていた。でも……嫌だった。別れたくない……。俺のこと、好きじゃなくていいから……一緒に居てくれ……」
神童もついに泣いてしまった。ああ、泣かせてしまった。泣きじゃくっている神童に何もしてやれない。



「……ごめんね、神童……。ごめん……」
繰り返し呟く謝罪の言葉。どうしたら、許してもらえるのか、私にはわからなかった。私に出来ることといえば、謝ることと別れることくらいしか思いつかなかった。乏しい脳が刻んだ、過ちにまた泣いた。
「どうして……?どうして……」
ぐすぐす、泣き虫の神童が随分と高そうなハンカチで涙を拭っていた。ゆっくりと、泣いている神童に言い聞かせるようにいった。
「私は茜が好きだった。茜をとられたくなくて、付き合ったんだ……」
本当のことを言うと、神童が整った顔を紙くずのようにくしゃくしゃにしていた。
「ああ……知っていた。お前が目で追うのはいつも俺じゃなくて、あの子だということくらい。だって、俺がお前を見ていたから。それくらいわかる」



神童は頭が良かった。だから、全て気がついていた。私の心すらも。ならば、薄汚いことくらいわかるだろうに。どうして、私だったんだろう。茜を取っていれば、私は神童を取らなかっただろう。二人が付き合ってくれれば、私も諦められたのかもしれない。幸せそうに二人が笑ってくれればただ、神童を憎むだけで……終わったのかもしれない。今はそれすらも出来ない。
「それでもっ……諦めきれなかった……」
キラキラ、キラキラ。神童の涙は清かった。私の薄汚いものとはまるで質が違うような気すらする。何で、この人はこんなに綺麗な涙を流せるんだろう。きっと、茜もこの人の心が綺麗だったから好きになったんだ。私なんかと違って、綺麗だったから…。



「……し、んどう」
気がついたら、私は神童に腕を伸ばしていた。泣き止ませるつもりだったのか、同情だったのか。憐憫だったのか。どちらにせよ、恋愛の感情なんかじゃないのにも関わらず腕を伸ばしていた。


ああ……やっぱり、罪があったのは私一人だけだった。


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