常識ってなんだ…!?



美しい琥珀色の髪の毛を、揺らしながら女子が男子トイレに向かおうとしていたならば全力で止めるだろう。普通。「ちょ、待って。貴女、そっちは男子……」「ん?なんだい?別に問題はないだろう?すまないね、僕としたことが鏡を忘れてしまって……髪が乱れたから早く直したいんだ」髪の毛のことを気にしているらしく、先程から執拗に弄っている。やっぱり、女の子だ!そう確信した。しかし、綺麗だな。私の学年にこんな綺麗な子がいないから多分、私より学年は下なんだろう。「い、いや、でも……間違っているから」食い下がると、その子は怪訝そうな顔した後に涼しい顔をして、そのまま横をすり抜けていった。止めようと思ったが、すでに扉は固く閉ざされていた。まさか、開けるわけにもいくまい。それこそ、ただの痴女になる。



「……ち、痴女?」ど、どうしよう。と頭を抱えて、その場をうろちょろしていたら同じクラスの平良君を発見した。平良君は私のただならぬ様子を見るなり、駆け寄ってきてくれた。「ど、どうしたんだ?何かあったのか?」「へ、平良君……どうしよう。女子が男子トイレの中に入っちゃった」と、止めたのに。というと平良君が顔を引き攣らせた。珍しく、平良君も引き気味だった。「なんだそれ。痴女か?こ、この年で痴女って……怖いな。なんか身の危険を感じるな」将来有望な精鋭だな……とかわけのわからないことを呟いている。私も怖いよ、平良君。でも、まさか私が男子トイレを覗くわけにもいかないし……。というと平良君が「俺が見てくる。名前は此処で待っていろ」といってくれた。流石、平良君。頼りになる。頼もしい彼が絶叫したら通報しに行こう。



数分たっても戻らない彼を心配しながら、大人しく待っていた。暫くして控えめに扉が開かれたとき、私は平良君とその女の子を見つめた。女の子の方は不機嫌そうだった。平良君はニヤニヤ笑っている。「だ、大丈夫だった?平良君」私が心配して平良君に近寄ると、平良君はにわかに信じがたいことを口にした。「ああ。くくっ……こいつは男だ。名前」笑うのを何とか押さえているのか、平良君は唇をかんだ。「はあ?!い、いや、女でしょ!」冗談はやめてよ、と口元を引き攣らせて平良君を見上げると首を振った。金髪の女の子に目を向ける。やっぱり、どっからどうみても可憐な女の子だ。眉間にしわを寄せている。明らかに怒っているようだった。



「……照美は、男だ」笑いを抑え切れなかったのか、平良君が笑い出した。お腹を押さえて、爆笑。「何なの?僕の邪魔しに来て。しかも、入ってくるなり平良は僕見て、吹き出すし……」「だって!女が男子トイレに入ったっていうから、どんな奴かと思ったら!照美なんだぞ?!笑わずにいられるか!」あはははは!と爆ぜるように、笑う。一度笑ったら止まらないようで、ひーひーいっている。その様子を、見下したように金髪の子は、見下ろしていた。「……僕は笑えない。ところで君は、僕のこと女だと思ったんだ?」



金髪の美少女、改め美少年は不機嫌オーラ全開で私に迫ってきた。平良君に向けられていた、鋭い殺気のようなものは私に向けられていた。怒りの矛先は、私だ。本能的に、やばい!と感じ二歩下がって、間合いを取る。武道を嗜んでいなければ、部活すらしていない私が、この美少年に勝てるかどうかと聞かれたら、勝率は限りなく低いとしかいえない。せいぜい、背を向けて逃げるくらいしか思いつかない。「へ、平良くーん……。なんか怒っているんだけど、たすけてー……」平良君に助けを求めるように、視線を送る。平良君はまだお腹を抱えて笑っている。笑っている場合じゃないぞ!同級生のピンチだぞ!涙目になりながら、何度も謝罪を入れるという話は、割愛させていただくがわかることといえば、私は二度とこういうことに首を突っ込むことはないということだ。



title リコリスの花束を

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