八墓



!人を呪わば、のお話


名前に近づく男共は皆死んでしまえばいいんだ。名前を誑かす悪い女は怪我をしてしまえ。薄暗い部屋の中で、呪詛を呟きながら人を呪う。この行為によって男たち(あるいは、女?)が怪我をしようが、死のうが俺の知ったことではない。俺と名前以外は、幸せでなくても構わないのだ。そんな自分勝手。



昨日はやりすぎたせいだろうか、体調が思わしくない。机に顔を伏せて、目を瞑った。だるい……。「八墓君、大丈夫?」名前が話しかけてくれた。ああ、嬉しい。なんて、優しいのだろう。他の奴らとは大違いだ。他の奴なんて俺が、どうなろうが知ったことではないという感じで本当冷たいのに。名前だけが、俺の癒しだ。「大丈夫」短く返事を返す。無愛想だと思われてしまっただろうか?話すことにはあまり、慣れていない。歯がゆい。もっと、俺に話術があれば……名前も気分を害したり、退屈せずにすむのだろうか。そんなことを、ぼんやりと思った。名前が話しかけてきてくれているのに、この酷い吐き気と眩暈に邪魔されてよく、自分が何を言っているのかわからない。一枚のフィルター越しに映像や音声を流れている。そんな感じすらする。まるで自分が自分でないかのような。ただ、名前の愛らしい顔が曇っているのがわかった。



「なんか、最近事故とか……体調悪いって友達が多いから……八墓君も……って心配になったんだ」ああ、事故とか……?それはね、俺が呪ってやったからだよ。なんて言葉が喉の奥から出てきそうになったが、俺はそれを無理やりに飲み込んだ。そして、笑顔をつくって見せた。といっても、顔の殆どが髪の毛に隠れて見えないから、見えるのは多分口元だけ。それでも、名前にわかればいいと思った。「大丈夫だ。……少し、風邪を引いただけだ」そんな嘘が口からついて出た。風邪?そんなものではない。「そ、っか……。保健室ついていこうか?」「俺一人で行く。ありがとう」ふらつく足で無理やり立ち、よろよろと教室のドアへと歩いてゆく。悟られてはいけない。



保健室への道のりが今日ほど、長く感じたことはない。足が何度も縺れて転びそうになるし吐き気も、先ほどよりも酷くなっていた。「ゲホゲホッ……」少し咳き込む、息をするのが苦しい。人を呪わば穴二つ……そんな言葉が頭を過ぎった。沢山の人を呪ったから、今こうして、俺にかえって来たのだ。これは言わば自業自得。「……人を呪いすぎたのか」壁に背を持たれ、ずるりと重力にしたがってへたり込んだ。そして、俺はそのまま意識を手放した。次に目を開けるときに名前がいればいいな。なんて、淡い期待を胸に抱きながら。

戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -