平良



!SSあいうえおの「あ」の没っぽいもの平良と姉弟設定。
 これだけでも読めます・・一応。



近頃の貞の様子は何か変だった。何かを思いつめているような深刻な表情を浮かべては、ため息をつく。生まれてからずっと一緒だったから、これは気のせいではないということはわかる。貞は本当に大事なことは自分ひとりで思いつめる傾向がある。何をしてやれば、貞があんな顔をしなくなるのか、私にはわからなかった。姉として、何をしてあげられるのだろうか。貞は私の大事な弟。だから、いつだって貞には笑っていて欲しい。何が最良かを必死に考えても、私の小さな脳みそは悲鳴をあげるだけだった。冷たくなった手のひらで、額を押さえる。折角、最近先輩とデートできて嬉しかったのに、貞を見たらそんな気分は吹き飛んでしまった。



「ねぇ、貞……。学校で何か嫌なことでもあったの?」私が率直に貞に尋ねた、相変わらず貞は何かに追い詰められているような表情をしていた。昔はもっと、純粋にくだらないことで笑いあっていた気がしたのに。いつの間にか、貞が手の届かないところに行ってしまったような、不安を覚えた。貞が苦しそうに瞳を歪めた。何が貞をそんなに追い込んでいるのだろう。「……別に、ない」「そう……」言いたくないことなのだろう、と判断して私は言葉を詰まらせた。微妙な沈黙が流れる。それを先に破ったのは貞だった。「それより、さ。この間来た……男……だけ、ど」「ああ、先輩だよ」「……ねえ、さんと付き合っているのか?」「うん」



私が頷くと貞の鋭い視線と交わった。切なげに、苦しげに歪んだそれを私は、知っている気がした。「な……んで!なんでっ!!」ダン!と背中に強い衝撃が来た。先程まで腰をかけていた、椅子が地面にいつのまにか倒れていた。私の世界が反転していた。白い天井が見えて、漸く私は貞に突き飛ばされたんだ、と気がついた。それから、気道を潰すように覆う大きい手のひらが首を絞めあげた。「っあ……!ただ、し……!」息が出来ない、苦しい。必死に馬乗りになっている貞をどかせようとした。大きな手のひらが酸素を取り込もうとする私を阻む。貞が泣いていた。あ、あ、若しかして苦しめていたのは……私、か……?「姉さん、姉さん……俺はっ!」


ああ、そうだ、思い出した。貞のあの顔は……恋焦がれている顔、だ。

い月

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