部灰



職員室まで、重たいノートをクラス全員分持って行かなければ行けなかった。今日の授業の終わりにいきなりノート点検だ、とか言って二教科分のノートをもってこい、とのこと。しかも、私の隣の席の男子は今日、風邪でお休みらしい。普段、元気な癖に……こういうときに限って風邪をこじらせるって、どういう体の仕組みをしているのか教えて欲しいものだ。先生も先生だ。何で今日いきなりノート点検なのだ。何の前触れもなかったじゃないか。ふざけ倒せ……。この大量のノートを見て、私はため息をついた。二回に分けて持っていかなければ階段あたりで落としてしまいそうだった。そんな様子を見かねたのか、同じクラスの男子炎君が私に話しかけてきた。



「大丈夫?俺が少し持ってあげようか。今日隣が休みで、大変だね」ほら、半分持ってあげる。と言いながら半分以上のノートを両手で軽々と抱えた。歩星君や平良君に比べて彼は随分と華奢だと思っていたのだが、そうでもないらしい。現に私が重さに呻いていた量のノートを軽々とその、褐色の逞しい腕が持ち上げてしまった。なんて、優しいんだ……。彼の爪の垢を先生は煎じて飲むべきだ。うん。「あ、有難う。困っていたんだ」「うん。往復するのは、大変でしょ」その笑みからは悪意を感じられない。私はなんだか嬉しくなって微笑み返す。



ノートを抱えて階段付近まで来たときに炎君が歩みを止めた。「ねぇ、人に優しくされるときって、名前さんは……裏があるって思う?」「どういう意味?」質問の意図が今一掴めずに、に質問に質問で返してしまった。炎君は少しだけ困ったように笑った。彼を困らせたかったわけではなかったけど。「俺はね……裏があるって、ちょっと思っちゃうんだ。俺もそうだから」「……何か見返りを求めているってこと?」そういうと少しだけ驚いたように、目を見開いたがすぐに元の穏やかな顔に戻った。「……そうだね。下心もあるし……何より、見返りを求めているの、かな」彼らのサッカーは随分と人間離れをしているというのに、随分と人間らしいことを言うものだ。でも、確かに私を手伝うことに利益は生じない。何もなしで彼を手伝わせる義理は私には無いのだ。



「そっか……じゃあ、どうして欲しいか教えて欲しいな」私に出来ることだったら、何かするし。何か奢れ!って言うならジュースぐらいなら奢ってあげようと思う。やはり、ただ働きさせるというのは申し訳ないし。世の中はそう、ギブアンドテイクで成り立っているのだ。どちらかが、片方つくせばいいというものではない。「……んー。別に、俺は名前さんに何か、してほしいわけじゃないんだ」さっきと言っていることが違うじゃないか。炎君が見返りを求めていることは先ほどの言動からまず、間違いはないはずなのにそこから先を教えてもらえないのでは私にはどうすることもできない。「してほしいことはないけど……俺を少し意識して……欲しいかな」こんなことして気をひこうなんて中々、ずるいでしょ?といたずらに目を細めた。行動がずるいというよりか、その言葉がずるい。意識せざるを得なくなってしまったじゃないか。

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