月村



!幽谷視点のもう駄目な月村さん。格好いい彼は望めない。
次の月村に続いていたりする。




月村先輩はもう駄目だ。駄目なんてものじゃない。もう病院も引き取ってくれないだろう。そういう性癖なんだ、で済むのでしょうかあれは。私は……理解できません。いや、したくないです。理解したら理解したで自分も同属なのだということになる。それは嫌だ。「月村!お座り!」名前さんが月村先輩にそう言うと月村先輩は服が汚れるのも気にせずにその場に犬のようにお座りをした。その様はまさに犬……。狼なんて格好いいものではない。「わんっ!って……やっちまったあああ!!」従ってすぐに正気を取り戻して、絶叫して立ち上がる。ズボンの埃をパンパンと両手で払うと名前さんを真っ赤な顔で睨み付けた。迫力はまるでない。その顔のせいで。最早、これが尾狩斗の名物になりつつあるのが恐ろしい。七不思議のひとつにでもなりそうだ。「名前!いい加減にしろ!俺は犬じゃねぇっ!」月村先輩が、怒鳴りながらやめろ!と抗議する。名前さんはニヤニヤしながらまた、月村先輩に言う。



「月村っ!お手っ!」「わ、わんっ!」名前さんの華奢な手のひらに月村先輩の一回りほど大きな無骨な手のひらが置かれた。すぐにハッとして、月村先輩がその手を素早く、どかした。もう、素直に名前さんの犬になりました!とか言っちゃえば良いのに。楽になれますよ〜……色々な意味で。開き直りって、時と場合によっては必要だと私は思いますし。「……って、何をやらせるんだっ!」怒る月村先輩をよそに、いつもと変わらない穏やかな表情と声色の名前さん。お、大物だ……。並大抵の女性には出来るものじゃないことを私は知っている。「よしよーし、散歩に行きたいのかなぁ、月村は?」名前さんが、わしゃわしゃと大型の犬を撫ぜる様に少し乱暴に月村先輩の髪を撫で回した。気持ちよさそうに目を細めて、素直に名前さんのそれを受け入れている。



多分尻尾があったら、ぶんぶんと千切れんばかりに振っているんだろうなぁ……。なんだかんだで、月村先輩は名前さんのこと大好きだから。(気づいていないのは本人たちだけでしょうけど。)「さ、月村。散歩に行くよ。おやつも持っていこうね!」名前さんがポケットから小さな、チョコを取り出して月村先輩の前にちらつかせた。それは、月村先輩が大好きな……!きっと知っていてわざと持ってきたんでしょうね……。「ぐっ、だ……騙されないぞ……。俺は犬じゃねぇっ……」月村先輩がそう、言いながらもジリジリと名前さんとの距離をつめていく。見つめている先には、名前さんの手の上にあるチョコ……釘付けになっている。……おやつに釣られているんですかね……。結局この攻防も長くは続かず、月村先輩は名前さんとお散歩に出かけてしまった。彼はもう、完璧に名前さんの犬ですね……。恐ろしい。……狼を飼いならす、名前さんは調教の才能でもあるんでしょうか……。(なんだかんだで、名前さんの言葉には必ず従う忠犬ですし。)



しかし、気を付けてくださいね。犬は発情しますから。

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