メフィスト



全てを嘘で固めた。口から出る言葉は嘘ばかり。次第に仲間にすら「お前の言うことは嘘だらけで、信用できない」とまで、言われる始末だった。確かに仲間にも、ちょっとした嘘なんかはよくついていたが、そこまで言われる覚えはメフィストにはなかった。仲間につく嘘と、人間につく嘘は質が違う。人間につく嘘はもっともっと残酷なものだった。後悔したことも、良心が痛むなんてこともなかった。寧ろ、それが快感に似た感情を生んだ。悪魔だからだろうか。人間ではないからこんな非道で、残酷なことができたのだろうか。今も、誰かの泣き声が耳にこびり付いている。



そう、メフィストが隣にいた、若い女にそう話した。女は何処か憂いを帯びた表情をしているメフィストの傍に寄り添った。「話してくれて、有難う」「……名前。俺は未だに口から出ちゃうんだ。嘘が。お前を好きになってから、変わろうと思ったのに……駄目なんだ。俺が言う言葉全てが安っぽくて、薄っぺらい。違うのに、こんなはずじゃないのに……」長年嘘で塗り固められた自分を、変えたかったのに。名前に相応しい奴になろうと思ったのに、嘆くように悲愴な声で呟いた。仲間ですら、聞いたことの無いようなそんな、感情を含んだ声。「……大丈夫、ゆっくり変わればいいんだよ。私は、メフィストのこと、信じているよ」そう、メフィストの背をあやすように優しくなぜた。名前の言葉はメフィストにとって、魔法の言葉のようだった。簡単に自身の固く閉ざされた、気持ちに触れる。最初はそれが見透かされているようで、嫌だったが……今は心地よくてずっとこうして、傍にいて欲しいとすら思うようになった。「うん……」「最近は嘘を吐いても、ちゃんと訂正を入れるじゃない。大丈夫、ちゃんと変われているよ」



目を優しげに細めた。それに、少しだけ元気を取り戻したメフィストが笑う。「そうか……?なら、よかった」人間に現を抜かすだなんて、昔の自分が見たらきっと大げさに馬鹿笑いして貶すんだろうな。とどこか、他人事のように思えた。今は、この関係がとても好きでとても、手放す気にはなれない。誰に馬鹿にされても構わなかった。名前から離れるなんて、考えられなかった。「名前、愛しているよ」メフィストが、やけに真面目な声色でそう名前の耳元で囁いた。名前の頬や、耳朶が朱色に染まる。「……それは、本当……?」「何だよ……結構、本気で言ったんだけどな」メフィストが、名前を抱き寄せた。名前はそれに抵抗することなく、腕の中にすっぽりと納まった。「ふふ、わかっているよ。私も、メフィストのこと好きだよ」そういって、名前は幼いキスをした。嘘の塊は、小さく身じろぎをしてそれを受け入れる。



悪魔は、女に恋をした。それは呪いのようなものだった。メフィストは気がつかない。

戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -