風丸



!悲恋


好きな人が出来た。その言葉を聞いても私は然程驚くことはなかった。私は何となくだけれども気がついていた。最近はなんだか疎遠でどちらともなく避けているようだったから。「そう」短く呟くようにそう言う。時が刻々と流れてゆくだけだった。私は、ブランコに腰を下ろして黙って次の言葉を待っていた。キィキィとブランコの揺れる音がやけに耳につく。「だから、別れようか、俺たち」決まりきったようなテンプレートの言葉を口にする風丸。「うん」私は一度だけ頷いた。私には風丸を引きとめる権利など存在しないのだから。名ばかりの彼女と言う立場など今は意味などない。「怒らないんだな。名前は」「別に怒らないよ」怒ったところで、悲しんだところで、この状況が変わるわけでもないのだから。ならば、最初からすんなりと別れるほうが素敵だと思う。風丸への思いがその程度だったってわけじゃない。だけど泣いて縋り付いて、風丸を引きとめたところで風丸の心までを繋ぎとめることは出来ないだろう。きっと、優しいから多少私に同情をしてくれるかもしれないけれど。



「さようなら」別れの言葉を告げて、ブランコから立ち上がった。誰ともすれ違うこともなく、あたりは何故か寂寞としていて今の私にはとてもお似合いだった。家に着くころには、風丸から貰った宝物の全てが一気にガラクタへと変貌を遂げていた。好きだった、だからこそ、困らせたくなかった。しかし、今になって涙がでるとは。私も涙腺が脆くなったものだ。泣くな、泣くな。と思えば思うほどに涙が止まらない。私はきっと、また貴方に似た人を探してしまうだろう。

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