源田



思えば、私は本当健やかに成長したと思う。これでもか、といわんばかりに伸びた身長にため息が零れた。どうしてこうも栄養が身長にまわってしまったのか謎である。もっと他に回るべき場所があるのではないか……?……胸とか。友達の身長を見ていると、少しだけ羨ましくなる。私もあれくらいでとまればよかったのに、と。友達は嫌味なのかしらないけれど、私の身長を恨めしそうに見てくる。彼女たちは小さいから、なんだか自分より可愛く見える。「はああああ……」長いため息を吐いた。今まで、こんなに深刻に悩んだことはなかった。「……わざわざ俺の目の前でため息吐かないでくれるか?」「あんたと同じくらいの身長じゃなけりゃこんなに辛くなかったわ」彼氏である、源田と並んで歩くと微妙に私の方が大きかったりする。これ以上成長しなくていいです。いや、振りじゃなくて、まじです。だから底が厚い靴とかは絶対にはけない。これ以上差をひろげたくない。



「……本人の前で言うな。俺だって少し気にしている」「牛乳飲む?小魚もあるよ?」さっき自販で買った紙パックの牛乳を源田に突き出す。小魚は最近鞄の中にある。勿論源田の為に常備しているわけであって、私が食べるためではない。源田は複雑そうな顔でそれを受け取り、口を開いた。「……なぁ、言っておくが俺が小さいんじゃなくて、名前がでかいんだぞ?俺は、一応平均身長よりはあるんだからな?」私はそんなことわかっているよ。と肩を落とした。現実は一応理解しているつもり。「だってさー、彼氏より身長あるとかなんか悲しいじゃん……」学校の屋上へ続く階段を一段源田が上る。私が立ち止まると理想的な身長差が出来上がる。「名前、ちょっと待て」「ん?何で?」いいからいいから、と言われて私はそのまま突っ立った。源田が少し屈んで、私の唇に指で触れたあとに唇を重ねた。リップ音が耳に残る。「そんなの一々気にしていたらきりがないぞ」と耳元で囁いたあとに、いつもの穏やかな笑みを湛えた。

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