緑川



ショートケーキに乗っかっていた、可愛らしい苺。最後まで残っている苺が哀れで、俺はその苺を救ってあげるつもりで食べた。捨てられてしまうのならば、俺が食べて消化してあげたほうが苺のためでもある。何より勿体無い病が発症しているのだ。ぱくり、と一口でその苺を口に放り込み、ゆっくりと味わうように噛み砕く。苺の甘酸っぱい香りと味が俺の口内を満たしていった。苺は好きだ。練乳があっても美味しいけれど、そのままでも俺は好き。「ってああ!リュウジ!なんで食べちゃったの!?」ジュースを取りに行って、席を離れていた名前の悲痛な声が俺の至近距離で聞こえた。そこで、やっと名前が残していたのではなく、最後の楽しみにとっておいていたということがわかった。だが、時すでに遅し、もう苺は俺の胃の中だ。



「……ご、ごめん!名前が嫌いなのかな、と思って……」言い訳を口にしてもわざとらしくて、名前は相変わらず不機嫌そうに俺を睨みつけていた。……そ、そんなに怒らなくてもいいのに。何なら苺単品で買ってくるよ、俺。……ああ、わかっているよ。そういうことじゃないってことくらいね。まぁ、俺は状況悪化するのが嫌だから言わないけれども。「……さ、最後の楽しみだったのにぃ……。苺……。」がっくりと項垂れた名前に俺も罪悪感が沸いてきた。そんなに苺が好きだったんだ。確かに、ショートケーキの生クリームの上にちょこんと一個だけ置かれている苺は確かに少しだけ、特別に思える。といっても、俺のケーキはもう食べてしまったから、苺はないし……。「……ご、ごめんね?」もう一度謝る。謝っても苺は帰ってこないけれど。謝らなければいけない気がした。口内はまだ、苺の味が残っている。此処でキスしたら殴られるかな?

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