佐久間



無意識で掻いているのだろうか。俺はさっきからその華奢な腕を掻いている名前が気になって仕方が無かった。名前は気づいていないのだろうか……。俺との会話に夢中なのか、全然気にする様子が無い。「なぁ、さっきから腕掻いているけれど、どうしたんだ?」俺が、そう聞くと名前は「え?」って不思議そうな顔をしたあとに俺に向けていた視線をようやく、左腕に向けた。「うわ……。蚊にさされている!い、いつ刺されたんだろう……」全然覚えがない……。と言ってまた、赤く染まった皮膚に爪を立てて掻いた。「……あんま掻くと傷になるぞ。」俺が注意をすると、名前は「だって、痒いんだもん」と顔を歪めた。



腕はその刺された部分の周辺だけが赤くなっていて、少し痛々しかった。血が滲んでいる。さっきからずーっと掻き続けていたせいだろう。「っていうか、気づいたら余計に痒い気がする!!」「俺のせいかよ!」「……そんなことは言っていないじゃない」名前は刺された腕を掻かないように、ポケットに手を突っ込んだ。「そういえば、刺されやすい血液型とかあるらしいね」気を紛らわせるように、名前は俺に話題を振ってくる。そういえば、そんな話昔、テレビでやっていた気がする。記憶は曖昧で、あやふやだ。



「……らしいな。本当なのか?」名前は「さぁ……」と言って、歩みを速めた。本当は掻きたくて仕方がないのか、たまに腕が揺れる。「今度から虫除けスプレーしよう……」「まあ、よかったじゃないか、首とか顔に刺されなくて」「……まぁね……。顔は嫌だなぁ……。首も……ちょっと、見える部位は嫌かも」ま、意外と他人は気にしていないものだって、わかるんだけどね。と続けて言う。「俺は、気にする」「何で?」「……いや……せっかく、俺が首につけたのにどっちが虫刺されかわからなくなりそうじゃないか」含んだ笑みを、名前に向けると一気に頬が羞恥の色に染まり、ポケットに突っ込んでいた手を出して首を押さえつけた。そして名前は怒気を含んだような、声色で言った。「馬鹿じゃないの……!」それから、言葉を詰まらせたあとに佐久間の馬鹿!発情期!とかぼろくそに俺を貶し始めた。はいはい、俺は発情期、発情期。

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