綱海



今日も、綱海さんのサーフィンをしている姿を遠くの浜辺から眺めていた。綱海さんは本当にうまくて、格好いいし絵になる。綺麗に焼けた褐色の肌、ふわふわ揺れるピンク色の柔らかそうなボリュームのある髪の毛も私は好きだ。しかし、私はバランス感覚が壊滅的だから、サーフィンなんか出来ない。だから、此処から眺めていることしか出来ないのだ。実は綱海さんにいっていないけれど、泳げなくて海に入りたくないのだ。波打ち際ぐらいが丁度いい。透き通る綺麗な海に反射する光が、眩しくて私は目を細めた。



「なぁ、お前も見ていないでこっち、来いよ!」綱海さんが大声で呼ぶ。一応周りをキョロキョロと見回して確認する。周りには勿論、誰も居ない。気が重い。海には入りたくない、泳げないのがばれてしまう。「え、いや……。私はいいです……!遠慮しておきます!」綱海さんのサーフィンしている姿を見ているだけで楽しんでいるから、気を使ってくれなくてもいいのに。大声で綱海さんにそう叫ぶと、綱海さんが海からわざわざ上がってきて、私の近くに来た。それからいつもの、あの笑顔を浮かべた。「……若しかして名前、泳げないとか?」



……冗談交じりのその言葉は図星だった。なんで、こういうときとても、鋭いんだろう。私が言葉を詰まらせると、微妙な沈黙が出来てしまった。綱海さんがそれを壊すように恐る恐る口を開いた。「……まさか、図星……か?」悪いことを言ってしまった、と一瞬表情を曇らせる。本当にただの冗談のつもりだっただろう。そこまで大げさなものではないのだけれど、実は水に顔をつけられないくらい酷いのだ。「……はい……」「よっしゃ、じゃあ泳ぐ練習しようぜ!」私は、嘘をつかずに頷いた。綱海さんが私の手を引いた。ザボザボと透き通る海の中に私を引きずり込む。「海は綺麗なところだぜ!」泳げるようになると、いいな。

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