源田



ガタン……電車が大きく揺れた。名前の小さな体がその揺れに耐え切れずに俺のほうにぶつかった。衝撃が俺の体に走った。俺は足に力を込めて、それを受け止めた。少しだけ体が傾いた。名前が申し訳なさそうに、小さく謝った。密着した体をゆっくりと、腕で抱きとめる。今の時間帯は学生が多くてとてもじゃないが、椅子には座れない。空いているのならば、名前だけでも座らせてやりたいのだがそうもいかない。(正直俺は立っているのは、辛いわけではない。)



まただ、先ほどよりも大きな揺れを感じた。俺は名前が他人に縋り付かないように、先に抱きとめる。名前の為でもあったが、それよりも……誰かが名前に縋り付く姿を想像したくなかったからだ。そのまま、名前を守るように俺の腕の中に閉じ込める。困ったような気恥ずかしそうな、声が下のほうから、聞こえてきた。「源田ぁ……離して、もう大丈夫」そんな大丈夫という確証もないのに、離していいものか。俺は困ったが、取りあえず抱きとめた腕に力を込めた。どうしたらいいかわからない、といった表情がドアのガラス越しにうっすらと見えた。



「名前は危なっかしいからな」支えてやらないと、転んでしまいそうだ。そう付け加えると名前は子供のようにむくれた。だけど、抵抗する様子はない。俺から抜け出せるわけもないのだから、当然といえば当然だが。「あ、そろそろ降りる駅だよ」名前が上の電光掲示板を見て、そう囁きかけるように言った。俺も視線を電光掲示板に映す。嘘ではないらしい。次にアナウンスの女性の声が聞こえた。名残惜しいが名前の暖かで、柔らかな体を解放した。腕にはまだ、名前の温もりが残っていた。

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