鬼道



ピピピッ……ピピピッ……。控えめな携帯のアラームの音が、耳元で鳴り響いた。手探りで携帯を手繰り寄せ、一度アラームをとめたがスヌーズにしてあるからとめてもまた鳴り響く。一向に鳴り止まないそれに、業を煮やして私がムクリと布団から起き上がるとアラームを解除した。これで、やっと快適に眠れる、と一安心したところで聞こえるはずのない声が聞こえてきた。「おそよう、名前。昨日のせいで、腰でも痛むのか?」私がその声の主を確かめると、毛布に顔を突っ込んだ。出来れば、見なかったことにしたかった。が、そうもいかない。「……黙れ、変態。お前とそんな不埒な関係を持った記憶はない。何故此処にいる。不法侵入か?」



眠さの苛立ちも手伝って、随分と低い声が喉から出てきた。ククッと、喉で笑う鬼道に私は嫌気がさしてきた。こいつが、いると碌なことにならない。さっさと出て行って欲しい。安眠妨害だ。言いたいことは山ほどある。「何だ、記憶喪失にでもなったか?お前のお母さんに入れてもらった」うちのお母さんは娘が可愛くないのだろうか。心の底で憎んでいたのだろうか。あれか、獅子はわが子を千尋の谷に突き落とすって奴だろうか。「不愉快だわ。出て行かないなら、力ずくで出て行ってもらうよ?」「……ほぉ?出来るのか?」鬼道が挑発的な視線をゴーグル越しに向けた。腹が立つなんてものじゃない。



正直あまり、勝てる気はしないのだが。(勝率も低め。)あいつの急所でも蹴り上げて、追い出す……なんて卑怯な手を頭の中で思い浮かべた。が、流石に殺人を犯す気にはなれず、浅いため息を吐いた。「寝る気が失せた……。着替えるから、出て行って」私がそういうと鬼道がにやりと口元を歪めた。出てゆく気配はない。腹が立つ、腹が立つ。出て行く気なんて微塵にもないんだ。そう、悟った。「折角だから、俺は此処で座って見物……」ベッドに腰を下ろして、舐めるように足の爪先から上に視線を移動する。最低な嫌らしい視線に、耐え切れずに叫んだ。「でてけーっ!!」鬼道の、背中をポカンと叩いた。あまり、効果がないのか涼しい顔をしている。それが、益々怒りを煽るのだった。親はこの騒ぎでも、相変わらず来る気配がない。朝は忙しいのは私も知っているがこれには、不満や文句を言ってしまいそうになる。



不幸とはこのことだろう。娘がピンチだというのにと私は絶望の表情を浮かべた。こいつをどかすことが出来ない自分がふがいなかった。はぁ、と朝から大きなため息を吐いて幸せを逃がしつつ私は次の手段を練ることにした。

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