藤丸



思い切り、手のひらに力を込める。どんなに力を込めても手が滑るのか、はたまた……名前の力が弱いのか、蜂蜜の瓶の蓋は開くことがない。それに苛立ちを覚えた。かれこれ、数分は格闘しているのだ。手は真っ赤になっている。それを気にも留めずに、まだ焼きたてのホットケーキを尻目に力を込める。ホットケーキにはたっぷりの、バターと蜂蜜。このままでは、だいぶ味気のないホットケーキになってしまうし、冷めてしまう。名前は諦め気味に、一度机の上に大き目の瓶を置いた。



「開かないの?僕がやってみるよ」啓がその瓶を手繰り寄せ、片手で軽々と持ち上げた。名前はそれを目で追うと頷いた。「お願い」と眉を下げた。少なくとも自分よりも、力があるだろうと名前は思ったのだ。啓は少し自分の手のひらに、力を込めて蓋を回した。微かに、啓の色素の薄い紫色の髪の毛が揺れた。カポッ。という軽い音と共に、蜂蜜の独特の匂いが広がった。「ええ?!凄い……!全然開かなかったのに、そんな簡単に……」名前が感嘆の声を上げると啓は得意げに、蜂蜜の瓶を名前に手渡した。黄金色のそれは、まだたっぷりと入っている。それを、スプーンで掬い上げ啓のホットケーキと自分のホットケーキにたっぷりと、垂らした。



「そりゃ、何もしていない名前よりも僕のほうが力はあるでしょ」啓が得意げに言う。確かに名前は運動らしい運動をしていない。「うーん……でも、こういう時困るから、少しは力つけようかなぁ〜……」名前がフォークでホットケーキを突きながらそう呟いた。啓はそれを愛しげに見つめ、首を振った。「いいよ、その時は僕が助けてあげるから」ホットケーキを頬張って、咀嚼する。甘い蜂蜜とバターの味が口の中に広がる。啓も、ホットケーキを一口サイズに切って、口に運んだ。

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