平良



笑い声が聞こえる。俺以外の誰かと話して、笑う名前の声。一方的に、名前に好意を抱いて、幾程の時が流れたのか。毎日、頭の中で考える女なんて名前以外居ないし、名前以外に興味も沸かない。思春期の男ってのはこんなもんなのだろうか。頭の中は好きな子のことばかり。笑い声が聞こえる。携帯に熱中している振りをしながらも、耳を傾ける。どんな話をしているのだろうか、名前に関係のある話?それとも、好きな男の話か?一瞬携帯から目を離して名前の顔を、見つめた。話し相手は女だったということに少しだけほっとした。笑い顔が目に入る、脳裏に焼きつく。好きな癖に、情けない。恋というのは、此処まで人を変えるのか。前に友人が誰かに恋をしたとき、俺はケラケラ笑い飛ばしたのを思い出した。



馬鹿馬鹿しい、そんなことに現を抜かしているのならば少しはサッカーの練習でもしろ。……そう、言った。馬鹿みたいに、ボーっとしたり深くため息を吐いたり……たまに上の空だった。そんな友人が少し遠くなったような気がして、少し悔しかった。だけど、結局俺も同じだった。それにしても、なんだか心がざわつく。笑い声は絶えることがない。名前の声が途絶えても、名前の女友達の声が次いで聞こえてくる。まさか……。心にポツリとあった染みがジワジワ広がっていくようなそんな感覚を感じた。俺はこれを良く知っていた。“嫉妬”だ。俺はよく何かにつけて嫉妬の念を抱く。例えば、自分より優れたサッカープレイヤー。例えば、自分の成績より上の奴。……明らかに今抱いている嫉妬は今までの、それとは違い異質だった。



ああ……そうだな。相手が男ならば、まだわかるさ。よく見ろ。……女だぞ?言い聞かせるようにそう、何度か心で唱えてみせたが、何も変わらなかった。馬鹿げている、本当に馬鹿げている。理解はしているつもりなのに。ガタン、椅子が無機質な音を立てた。立ち上がった俺の足は真っ直ぐに、名前の元へ向かっていた。「名前、」そこで、言葉が途切れた。何て、自己中心的。その後の言葉は言ったら取り返しがつかないと俺はわかっていた。だからこそ、いえなかった。俺以外を見るな、話すな、笑うな。「平良、君……?」名前がそんな俺を不思議そうな顔で見つめていた。俺の言葉を待っているようだった。此処から先の言葉なんて俺は、考えてきて居なかった。好きなんだ、名前のことしか考えられないほどに。

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