緑川



名前の動きが先ほどからぎこちなかった。リュウジは読んでいた雑誌をソファーに置いて、床に座っていた名前に目を向けた。名前は座っていた両足を、緩慢な動作で崩し顔を歪めた。それは、まるで何かに耐えるような表情だった。それにリュウジは不思議そうに、首を傾けて名前を見つめた。足に触れないように庇う、その様子はまるで手負いのようだったからだ。「名前、足でも怪我したの?」「あー……いや、違うの。足、痺れちゃって」



名前はそういって、苦笑した。足が少し動くたびにピクリと体が揺れる。嫌な予感が的中しなかったことにリュウジは安堵のため息を漏らした。名前の様子は、いつもと違って大人しくしおらしい。そんな様子に加虐心が湧き上がってきたリュウジは口角を持ち上げて、名前に近寄った。リュウジの行動に嫌な予感がしたのか、名前はリュウジから離れようと身を捩った。「あの……リュウジさん?」リュウジを警戒しながら、名前はリュウジを見つめる。動けるほど、回復はしていないようだった。捕食者に追い詰められた小動物の気持ちだった。



それが、尚更リュウジの加虐心を煽るのだった。現にリュウジの浮かべる笑みはいつもの穏やかな笑顔ではなくて、何処か黒いものを感じさせるものだった。名前の足にゆっくりと、右手を静かに伸ばしてゆく。「ちょ、本当にやめて……!」「……どうしようかな」ニタニタと、元からやめる気など微塵もないリュウジが笑う。名前は必死に両手で制止しようとしたが、随分とあっけなく突破されてしまった。そして、そっとリュウジの一回り程大きな手が足に触れた。ビクッと体が震えた。「うぎゃあっ!」予想以上の反応のよさにリュウジが堪えきれずに、笑う。足に手を触れたまま名前の体を抱きしめる。「ごめんね、ちょっと意地悪したくなっちゃった」

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