辺見



やってしまった。一時間目の授業の教科書とノートを出そうとしたときに名前はようやく気がついたのだった。……今日の教科を、丸ごと隣のクラスの時間割と間違えたということに。幸いなことに、一部の時間割は被っていたため全ての教科を忘れたわけではなかったが……。お隣さんは最近席替えをしたばかりで今まであまり話したことのない男子、辺見だった。もう少し、仲のいい男子とかならよかったのだが、辺見の性格や乱暴な言葉遣いが名前は苦手でこちら側から避けていた。そのため余計に言いにくかった。別のクラスの友達に借りに行こうとも思ったのだが、何せ時間に余裕がない。もうすでにチャイムは鳴っていて、先生が来るのを待っているのだから。つまり、隣に借りるか先生に申告するかのどちらかなのだ。名前は絶望的な状況にため息を吐いた。



いっそ、教科書なしで強行突破……とすら考えたが、名前は腹をくくって辺見に話しかけることにした。「ごめん……辺見君。教科書殆ど全部忘れた……。見せてください……」辺見は次の授業の教科を、鞄から取り出し机の上におくと明らかに嫌そうな顔をした。あぁ、やばい。怒っている!などと、内心名前はパニックに陥っていた。それくらい、辺見の顔は険しかった。言ったことを後悔しつつも言葉を待つ。「ったく、しょうがねーな」相変わらず険しい顔のまま、辺見は名前の机に机をくっつけた。名前は申し訳なさで一杯だったが素直にお礼を言った。内心は未だにびくびくとしているが、それを悟られないように平静を装っている。名前は辺見の険しい表情の向こう側に気がつかない。少しだけ不器用なだけなのだと気がつくのはもう少し先のお話。

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