幽谷



本当、暑い。日本の夏は嫌いなんですよ、暑いというか蒸しているんですよね。私はだから、夏が嫌いなんですよ。この暑さは私を、困らせる。脳みそが沸騰して、溶けてしまいそうだ。年々、暑くなっていっているような気がする。太陽は近いのか、ジリジリ肌を焼いて氷が溶けて沈むイメージを思い浮かべる。涼しいところに行きたい。でも、寒いと今度は寒いと叫びながら暖かいところに行きたいと、我侭を言い出すに決まっている。まあ、そういうことは然程、問題ではないんですよ。問題なのは暑いことではなくて、目の前で扇風機を陣取っている名前さんに問題があるのだ。もっと、詳しく言うならば名前さんの格好に問題がある。なんで、あんなに薄着なんですかね。



短パンを着ていて、白く太陽に焼かれていない太ももは露になっているし。上だって薄着で二の腕を惜しげもなく晒している。微妙にじんわりとかいている汗はなんだか、情事を思わせる。食い入るように見ていては申し訳ないと思い、目線を逸らす。誘っているのか、とも思ったけれど名前さんの性格上それは、ありえない。ただ、単に暑いだけだろう。家に一人でいるときとか、男性が目の前にいないときならば私は文句いいませんけど。



でも、これって私はあまり警戒されていないということですよね。私の心境は複雑です。警戒されすぎても問題ですけれど、警戒されなさすぎるのも問題ですね。そりゃ、名前さんより一つとはいえ、下ですけれど……年とか関係無しに私はまず男なんです。そこをご理解いただきたい。警告もかねて、私は名前さんに言う。「もう少し、服を着てもらえませんか?」「やだよ、幽谷だって薄着じゃん。暑いのに……」



私の必死の懇願は、否定文となって返って来た。私はいいんですよ。私は男ですから。男女差別?いえ、このままだと名前さんのこと襲っちゃいそうなんですよ。こっちのほうが問題ですよね。惜しげもなく晒されている、健康的な太ももにまた目が行ったことにため息をついた。……仕方ないですよね、私はちゃんと、警告しましたから。名前さんが悪いんですよ。そんな、格好をしているから。

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