松野



パカリ。お弁当の蓋をわくわくして開けた。学校で唯一の楽しみ、それはお昼でも過言は無い。あとの楽しみなんて、休み時間に友達と遊ぶとかくらいしかない。そもそも、学校とは勉強をする場所なのだからそこに楽しみを見出せということのほうが間違いな気もしなくはないのだが。しかし、その楽しみも、ある物体を見て絶望の声へと変わった。「うっ……!」



あぁ、例のあれだ。あれ。世間で言うところの、嫌いな食べ物とやらだ。わざわざ大好きなハンバーグさんの隣に置くなんて、どういうことだ……。多分新手の嫌がらせなのだろう。ハンバーグさんと一緒に食べろと?嫌だね!水で流し込む……いや、食べたことにして誰かに食べさせる……。食べずに済むずるい手を色々と、頭の中で必死に思案していたら隣に座っていた空介がニヤニヤ馬鹿にするような真っ黒い笑顔を浮かべて、話しかけてきた。ああ……なんて嫌味な奴!「……名前って子供っぽいんだね」……私はムッとしてそれを神聖なるハンバーグさんのお隣からお弁当の端に追いやる。空介も上機嫌で隣でお弁当をあけた。さっきまで私を子供っぽいとか馬鹿にしていた、空介が悲鳴を上げた。「げっ……!」ちらりと隣の空介を盗み見て視線の先のそれを見てにやりと笑った。奴にも人間らしいところがあるらしい。そうだよね、そうだよね。人間誰しも一つや二つ……嫌いなものとか、食べられないものとかあるよね?今度は私が気分をよくしながら空介に話しかける。「人のことを馬鹿にした割には、随分と子供っぽいものが嫌いなんだね」先ほどの恨みもあり、嫌味たっぷりにそういってやると空介が苦虫を噛み潰したような顔をする。「う、うるさいなぁ……。ほ、ほら、名前の食べてあげるから」そういって、私の弁当に箸を伸ばしそれをはしで器用に摘み口に入れた。空介は嫌いなわけでもないのか、別段嫌そうな顔をしていない。「……だから、僕のも食べてよね……」相変わらず、ニヤニヤがとまらない……ま、食べてくれたし……私も食べてあげようじゃないか。



私も空介のお弁当箱に箸を伸ばして、それを摘み上げた。取引は成立だ。

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