香芽



たまたま、今回の席替えで香芽君と席が近くになった。彼に悪いところなど一つもない。しかし、問題が一つだけあった。香芽君は右斜め前の席で微妙に黒板が見えない。私はお世辞にも背は高いとはいえない。よく冗談で「背、わけろ〜!」とか言うけど半分以上、否、七割は本気だ。もう伸びないかもしれないと、親に言われてショックを受けたのは記憶に新しい。もう、伸びないんだ……。絶望に打ちひしがれながらも、それを受け入れた。というより、受け入れざるを得なかった。



今日初めて、香芽君が邪魔と思えた。畜生……黒板の文字、半分以上書き取れて無かった!ぴょこぴょこと角度を変えたりして必死に書き写そうとしたが時すでに遅し……先生に消されてしまった。消してもいいか?くらい聞いてくれてもいいじゃん。先生の馬鹿。チョークの粉をうっすら被った先生はそんな、生徒のことを大して気にもかけずにさっさと消してしまったわけで……今に至る。



がっくりと項垂れながら、しょうがない友達に貸してもらおう……と頭の中で考える。書き写すのに、休み時間を消費することになりそうだ。借りていってもいいけれど、貴重な家での時間を書き写すのに使いたくなかったし、明日ノートを忘れていったら、友達に申し訳なさすぎる。終わりのチャイムを聞いて私は、席を立った。と同時に香芽君に呼び止められる。



「待てよ。名前俺が前で見えなかっただろ?」端麗な顔立ちがすぐ近くにあって、私は思わず仰け反ってしまった。ば、ばれていたのか……と少し恥ずかしくなったが、あんだけ角度変えていたりすればばれないわけがないか…と少しだけ反省した。香芽君が悪いわけではない。「俺の貸してやるから」男の子が書いたような少しだけ大きな字が並ぶノートを貸してもらって私は笑顔でお礼を言った。「有難う」

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