吹雪



じわり、じわりと侵食していく。それは地道に名前を蝕んでいく。「……吹雪君っ!」同じクラスの女子が、吹雪に媚びるように話しかける。私も聞いたことがない、甘えるような、色を含んだ声色。彼はモテる、仕方の無いことだ。大体彼は私の彼氏なんかじゃないし、つまり私には彼を、彼女を咎める理由も無い。自分でそう、納得させているのに……もやもやもやもや、黒いものが渦巻く。わだかまる。心を、腹の中を巣食っていく。僅かながらもそれは確実に。「あはは……」彼は名前の方を見ることもなく女子と楽しげに会話をする。吹雪の中に名前という存在そのものがいないといわんばかりに。そんな態度に苛立ちや嫉妬を覚えていた。だけど、その感情の名前を名前は知らない。



ガタリ、とものすごい音を立てて椅子から立ち上がる。周りの女子と吹雪が一斉に音のした方向に振り返る。「ちょっと、ジュース買いにいってくるわ」作った笑顔を貼り付けて言うと、女子たちは何事も無かったかのようにまた吹雪に向き直る。ポケットに片手を突っ込んで、そのままドアを乱暴にあける。ガラガラと今にも壊れんばかりに、木の出できたそれが嫌な音を立てた。「いってらっしゃい、気をつけてね」そんな気持ちを知ってか、知らずか吹雪は、他の女子にも向ける同じ笑顔を貼り付けて名前を送り出した。名前も同じように、くだらない作り笑いを浮かべた。


侵食
(黒い何かが、全てを塗りつぶし侵食する。)

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