染岡



悲恋


一緒にいる、それは当たり前のことだった。俺たちはずっと一緒だったから、これからも一緒だと思っていたし、深く考えたことなんてなかった。それが日常だった。だからこそ、その大切さになんて、気がつかない。学校の帰り道、並んで歩いているときそれは唐突だった。「私さ、転校することになった。」脈絡もない。今まで、くだらないことを話していたのに。名前は俯いていて表情が読み取れない。俺は動揺していた。「何だ、よ。急に」俺の声が震える、困惑によって。名前は相変わらず俯いているが、声が泣きそうだったのに気がついた。「うちのお父さんの仕事の都合で、ね。転勤しなきゃいけなくなった。」「何処、へ……?」「……沖縄……」だから、もう染岡にも会えなくなっちゃうね。そういって、名前が漸く顔をあげた。その顔は、少しだけ寂しげだったがかろうじて笑顔を保っていた。いつもの笑顔なはずなのに、違うものだと思った。俺はといえば、寂しさよりも“嘘であってほしい”という感情が勝っていた。勿論、名前がこんなくだらないことで嘘をつく人間なんかじゃないって知っていた。たちの悪い冗談ならば、軽く頭を小突くくらいは許されるレベルだ。



嘘だといって欲しくて俺は妙な沈黙が続くその間中ずっと、黙りこくっていた。否定の言葉は返ってこない。ああ、本当なんだ。俺はただ、冷静を保って「そうかよ」と震える声で言った。名前はやっぱり寂しそうに笑った。何かをいいたかったような気がしたけれどそれすらも風が浚ってしまって、何もいえなかった。確証もない、感情だった。



名前がいなくなるまでの数日間、なんら変わりはなかった。ただ名前の周りが少しだけ騒がしいのと、名前が寂しそうに笑うだけ。しいて言うならば、強い寂しさを覚えただけだ。名前がいなくなってから、俺は何も変わらなかった。名前は俺の彼女なんかじゃない。友達、友達友達。友達だから、寂しいだけだ。……そう、思いたかった。「嘘、だ」俺の目からあふれ出した涙が、服の裾を濡らした。俺は名前が好きだった。離れて数日してから、そんなこと思うなんて馬鹿じゃないか。円堂より鈍くなんかない、って思っていたのに。俺は、大馬鹿だ。確証もない感情はいまや、強い恋心へと変貌を遂げていた。大切なものはなくなってから、気がつくって。誰かが言っていた気がした。

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