愛しちゃったんだから仕方ない



ベータ様、そう名前をいつもの呼んでみればぶすっと可愛らしく頬を膨らませて不服の様だった。彼女は一々仕草が可愛いのだけれども、非情な面が多々見られ二面性があるので私は若干、苦手だったりする。恐怖、畏怖……恐らくそれらの感情である。「ベータ様、」返事をしてくれなかったことに痺れを切らしてもう一度ベータ様と呼ぶとやはり不服そうに頬を膨らませたまま「違いますよ」と背を向けられてしまった。本当にその体は華奢で、あの攻撃的な面は嘘だったんじゃないかという程に口調が穏やかだった。「はあ?違うんですか」「そうですよぉ!様付けなんて距離を感じるじゃないですかぁ!もうっ、私との仲なのにっ」ようやく、振り向くベータ様の顔は相変わらず何処か納得のいっていないようだった。



「……で、では、リーダー」「違いますっ!」名前はどうして、わかってくれないのですか?!私はこんなにも真剣なのに!と逆にこれ以上膨らむのかってくらい更に頬を膨らませて怒られてしまった。辛うじて、あの攻撃的な面が出てこなかったが、このまま怒らせておけば時間の問題かもしれない。「それは、困りましたね……」「何も困ることないじゃないですかぁ。ベータと気軽に呼んでもいいのに」ベータ、それはこの間違えようのない。このお方の名前だ。私が神経をややすり減らしながらも、根気よく違う違うと言ってくるベータ様のお名前を呼んで見せた。「ベー、タ」あああ、これで私がベータ様の言いたいことを履き違えていて、怒らせてしまったらどうしようとか色々なものがぐるぐる回っているのにも関わらず目の前のベータ様はそれこそ何かに焦がれたような、淡い微笑と共に。「はい」っていう物だから、今度は私の方が照れてしまった。これが正解なのだろうか。ていうか、絶対に他の人の前で呼び捨てだなんて恐れ多くてとんでもない!



「もう!名前、私はリーダーや同じ任務を遂行するだけの関係だなんてこれっぽっちも思っちゃいないのですよ?」はあ、それでは私の考えていたこととあてはまっていないという事になる。例え、ベータ様がそう思っていても私はそう思っている。この上下関係はどう足掻いても消えることのない呪縛のようなものだ。私は化身アームドも出来なければ、ベータ様よりも格段に劣った存在だ。常にマスターから区別されている。だからこそ「それは、どういう?」なんて、愚かにも聞いてしまうのです。愚鈍な心を持った私にもわかるように、ベータ様は瀟洒に答えた。「そうですね……私が、そう呼ばれるのが嫌だったからです。ふふふ、名前は私にとって特別なんですよ、そう誰よりも。他の奴らにどう思われようが私には関係の無いことですよぉ。でも、名前も私と同じように特別であってほしいんです。この感情を独り善がりだなんて思いたくないんです」



何かを企んだような、敵対する雷門に見せるような何処か不穏な空気を纏ったまま私の目の前で立ち止まって、ベータ様らしい余裕たっぷりのキスをして口を離した。「ふふ、もーらい」「なっ。な?!」女の子同士だということをベータ様は知っているのだろうか。ああ、私の胸は悲しいかな、レイザよりもオルカよりも小さいしまな板同然だしあまり可愛くないから若しかしたら、男の子だと思っているのかもしれない。だとしたら、ベータ様を傷つけるかもしれないけれど本当の事を教えて差し上げるべきだと思った。「あ、あの、私、女ですよ」なんてしどろもどろと、騙すつもりは無かったのだけど申し訳ないという気持ちを半々にしながらベータ様の顔色を窺うように言ってみたらクスクス笑いだした。「ふふっ、かーわいい。……ええ、勿論知っていますよ?どっからどう見ても名前は女の子ですよ?私も女の子としてみていますもの」薄ら笑いのように見えた。「だから、様付けされるのが苦痛で苦痛で。名前限定で、ですけども」「あ、あの」



同性に今までこんなアプローチを受けたことが無い私は困り果てていた。大体今のだって私のファーストキスだ。今までいつか好きな人と思っていたのに。そんなことベータ様を前にして怖くて、いえるわけもないけれど。まんまとしてやられてしまった。もう私のファーストキスは取り戻せない。「うぅ、初めてだったのに」これはいくらなんでも酷いです。職権乱用ですよ、なんで風采の上がらない私なんだ。とやや下から睥睨すればまぁ、ってわざとらしい声で驚いたような表情を作り出した。「じゃあ、私は名前の初めての人なんですね、とーっても嬉しいです。それにしても、奇遇ですねぇ。私も初めてなんですよ」ふふふふ、上品に笑って、さも当然のように。そうはたからみれば恋人のようかもしれない。唇をなぞって、もう一度口づけた。本当か嘘かを見定めることはできないけれど極端に慣れていない風には思えた。な、慣れていたら慣れていたで大変だけれども。両刀で誰彼かまわず食っちまうぜみたいな感じだったら冗談じゃない。「でも、これで私も名前も二回目ですよ。ふふふ」一日に二度もこんなことを体験する羽目になるとは……。もうなんだか、蹂躙された気分だ。乾いた何かは形を作ることが無かった。



「私嬉しかったんですよぉ?私のリーダー就任を全員が全員快く思っていなかった。平等に接してくるのはオルカや一部の人だけ。でも、オルカは前から私の知り合いでした……だから、ある意味当然だったのです。だから、私を受け入れてくれる名前の存在が、私にとっては本当の意味で救いだったんです」「それとこれとは何の関係が?」最早涙目になりつつある、私を見つめながら、口が形を作った。空気が音を運び出す。「それは切っ掛け」だから全くの無意味な物ではないの。まだ理由が必要なら順を追って私の部屋でゆーっくり教えて差し上げますよ、それから名前の知らないこともねと何処か生暖かい息を耳に吹きかけた。



title リコリスの花束を

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