ふぇちずむ



!指フェチ夢主。きもめ。


雑踏、雑音。静まり返ることの無い、この廊下。窓から少しだけ身を乗り出して、外の人々の行きかう姿をぼんやりと眺めながら、最近のことを思案していた。俺は昔から変に考え込んでしまう性格で……今回のことも深く思い悩んでいた。だが、そんなシリアスな雰囲気(?)も即効でぶち壊すトラブルメーカーがやってきた。「神童すわぁ〜ん!!」……もう、ね。声だけで誰か判別できるほどによく耳に馴染む声だ。俺を慕ってくれているまでは…まぁ、別に構わないし。その想いは嬉しいと思う。でもね、あれは駄目だ。駄目とかの問題ではない。「……名前……」振り返れば、やっぱり名前だった。爛爛と何かの野望を持つ獣のような瞳。……女に対してこのような表現はいかがなものかと、俺自身思うけれど……。あれは獣だ、いや……野獣だ。俺が恐れ戦き数歩引くとじりじり間合いを詰めてくる。




冷や汗が地面に零れ落ちたのと、ほぼ同時に名前が飛び掛ってきた。反射的によけようと、思ったが冷たく固いタイルの地面とこんにちはー、させるのがあまりにも可哀想に思ってしまい俺の足がその場に踏みとどまった。正直いらない心配だったと思う……。俺の腕に思いっきり抱きついて、手に頬ずりをしだす。うっとりとした瞳と、熱の篭ったため息。それはまるで恋をしているかのようなそれだ。「はぁ、すべすべ……。神童さんついに私を受け入れて……」「断じて、違う」言い切るよりも先に、すばやく俺の本音をぶつける。誤解されては溜まったものではない。大体、名前は俺が好きなわけではないのだ。毎日毎日、ご苦労なことだ。「ふへへ、神童さんの指綺麗だな〜。やっぱピアノやっているからですかね?!」……な……?つまり、俺の指が好きなんだそうだ。顔は悪くないのに、なんでこんな余計な性癖を神様はオプションでつけてしまうんだろう。俺の指を見る前まではいいクラスメイトだったのに……俺の指に目をつけてからこうだ。毎日、飽きもせずに俺の指を食い入るように見つめては、変なうわごとを言うまでになってしまった。泣きたい。帰りたい、あの頃に帰りたい。戻れるならばまた、普通のクラスメイトに戻りたい。



「このしなやかで、細く長い指……まさに至高」指の一本一本に優しく触れては、うっとりと瞳を細める。余程、好きなんだろう……指が。「……やめてくれ……頼む。俺じゃなくてもピアノやっている奴くらい居るだろう?」じんわりと瞳に浮かんだ涙目で俺が尤もなことを言うと、名前がゆるゆると首を振った。「駄目!神童さんのが一番綺麗よ!ああ、舐めたい」……最後の一言が無ければただの褒め言葉だったのに。舐めるって、俺の指……?指だよな……。やけに一番綺麗の部分だけ強調していた気がする。嬉しいのに、最後の一文のせいで素直に喜べない。ああ、俺だって他人の趣味嗜好、性癖には口出ししたくはないし……犯罪ではない限りは文句言わないさ……。でも、俺が被害者だから……。此処がポイント。俺が被害者。被疑者は言わなくてもわかるだろうが、名前だ。




「舐めていい……?」上目使いで俺のことを見上げながら、媚びるように可愛らしく猫なで声で言う。一瞬ドキッ、と心臓がはねたがすぐに、冷静になった。これは、罠だ。「駄目だ」きっぱりと跳ね除けると、名前が露骨に残念そうにしていた。大げさな。「……ちょ、ちょっとだけ……。へ、減るもんじゃないし!」指が磨り減ったりすることは無いだろうけど……何かが減る。確実に減る。「やだ。サッカーの練習をしてきたばかりで、洗っていない」必死に宥め言い訳を並べ、もっともなことを言いながら振りほどこうとしたら、腕をありえない力で掴まれてしまった。



「大丈夫。土に塗れていても愛せる自信があるから……!」うわわわわ!じょ、冗談だろう……?うわっ、目が本気だ。やばい、俺の指がっ……!食われる!「し、神童さん。私がその……責任とりますんで……!」せせせせせ、責任って何の?!え!?ちょ、ま…!やめ!俺の指を唇に近づけるな!というか、その台詞可笑しい!たすけてっ!誰か!このままだとまじでやばい!「ちょ!!じょ、じょうだ……っ!いやだああっ!」女みたいな絶叫をしても名前は動じずに、俺の指をくわえていた。生暖かい何かが指を包み込んでいる。舌が指を這っている。俺の指なんて美味しいんだろうか……凄く幸せそうな顔をして頬張っている。なんか気持ち悪い。変な感覚だ。い、犬にでも舐められたと思っておけば……!駄目だ、駄目だ。現実がちらつく……!必死に堪えているが、もう……泣いてしまいたかった。硬直して動けない俺と、満足げに愉悦の笑みを浮かべている名前。


うぅ……俺、もう駄目だ……婿にいけない……。

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