不味そうな魂



デモンズゲートによく遊びに来る、人間の女が居る。よくもまぁ、こんな悪魔がうようよいるような所に遊びに来られるものだな。俺が人間だったら絶対行かないぜ。魂を好物にしている、悪魔がいる。なんて知ったら普通は食われるから行かない!って、思うのが普通じゃないのか?なんで、あいつは自分から来るんだろうか。意味わかんねー。名前って意味わかんねー。まぁ、名前が多分、特殊なだけなんだろうな。実際、此処を訪れる人間なんて名前くらいだし……。他の奴らも黙って俺と名前を見ている。意味深長に。言いたいことがあるなら、俺に直接言えば良いのに。何なんだよ。「前々から思っていたんだけど、デスタって何で私のこと食べないの?」今日は来るなり、そんな質問を俺にぶつけてきた。「あ?お前の魂がまずそうだから食わねーんだよ」




名前にそう吐き捨てるように、言うと名前がしょんぼりと肩を落とした。とっさに口から出てきた嘘、だった。流石に、お前が好きになったから食いたくなくなった。なんて……言えるわけもなかった。悪魔としての威厳がなくなる。しかも、他の奴らに示しがつかなくなる。因みに、名前の魂は俺から見ればよくも悪くも普通だ。特別美味しそうってわけでもなく、まずそうってわけでもない。魂からは、普通の人間性が滲み出ている。こいつと知り合って親交を深める前ならば、間違いなくペロリと一口で食っちまっていたと思う。不本意だけれど、今は食べたくない。悪魔失格かもしれない。



それなのに、何でこいつは不満げなんだよ。大体、お前のことが食いたくない理由がなんでわかんねーんだよ、こいつ。「……私、まずそうなんだ……。私の魂が穢れているってこと……?」「そこまでいってねーじゃねーか」なんだよ、なんだよ。お前本当に何も気がつかねーのかよ。言わなきゃわからねータイプかよ。うわ、面倒くせぇ……。んな気恥ずかしいこといえるか、馬鹿。こんな形でしか、言えない俺も俺だけどな。「だって、まずそうって……。私ね、デスタになら食べられても良いんだよ」僅かな余韻を残して、そういった。俺に魂を差し出そうってのか。そんな女、初めてだ。人間は俺のことを忌み嫌うような奴らばっかりだっていうのに。くだらない甘言には耳も貸さずに「ばっかじゃねーの、お前」と暴言を吐いてやると名前が、不機嫌そうに顔を顰めた。俺の暴言に怯んだりしないこの女は随分と、肝が据わっている。普通の人間ならば竦んでしまうというのに、変な奴。でも、そんな変な奴を好きになる俺も変人なのかもしれない。



「何よ、デスタにならいいと思ったのに」「意味わかんねー。食われるってことは死ぬってことだぞ。お前それ、わかって言っているのか?」名前はわかってねーんだろ。どうせちょっと寿命が縮まるとかその程度にしか認識していないんだろうとか……思っていったら名前はわかっているよ。といつもと変わらない、態度で俺の瞳を見据えていた。嘘を交えていない炯眼で。「……本当に、いいのか?」俺が確認するように慎重に緩慢な動作で名前の肩をつかんだ。名前がぶるりと身震いをした。それは慄然なのか、はたまた生理的な身震いか。瞼をゆっくりと閉じて唇を僅かに動かした。「……いいよ。私、デスタが好きだから」何だ、それ。好きなら命も差し出すってか。ばっかじゃねーの。そんな、馬鹿みてぇな献身的な愛情とかすげぇ嫌い。俺もお前が好きだ。だから、食いたくないのに。確かに食えばお前の魂は俺の一部になって、永遠にお前と一緒になれるのかもしれない。あれ……中々ロマンチックだな。



……浪漫とは無縁だけどな。女々しすぎ。きもちわりぃ。俺は好きな女は傍においておきたいタイプなんだよ。「……じゃぁ、そのまま目瞑っていろよ」ギュッと思い切り目を瞑って、唇を結んだ名前に俺は少しだけ屈んで、俺の想いを唇に乗せて口付けた。想いが消えないように、全てを名前に注ぎ込むように。短いリップ音の後に、名前を見ると名前は目をまん丸にして驚き困惑していた。「な……?!え、ええ?!い、い……今?!で、デス……?」言葉を噛みながら、必死に俺に混乱を伝えてくる。頬を朱色に染めて、パクパク何度も言葉を口にしては、噛む。少し黙ってりゃいいのに。「あー、やっぱ訂正な。お前、美味い。また、食いたくなるくらいに、な」下唇を人差し指の爪先でなぞると、名前が顔を羞恥に歪めた。ことをようやく理解し、頭の中で整理ができたらしい。先ほどよりも幾分落ち着いている。……俺も実のところ、あんまり平静を保てているわけではない。だけど、こいつの前で格好悪ぃところ見せたくねーし。いつものように振舞っている。「じゃぁ、またな。次、来るときは……もっと色気のあること言えるようになっておけよ」



くしゃりと、名前の髪の毛を一度撫でる。ふわふわの女の髪の毛。女の頭とかに触れたのは、初めてかもしれない。慈しむ気持ちも、愛しいとか言う馬鹿げた感情も。ま、色気なんか期待してねーけどな。色気なんか出された日には、魂じゃなくて名前のこと食っちまいそう。透き通るような名前のソプラノの声を背に俺は自分の唇をなぞった。魂なんかよりも甘く柔らかで、なんかのお菓子みたいだ。……ああ、俺もいよいよ……焼きが回ったな。それでも……満更でもない。

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