よわくなった懺悔



次回

ずっと好きだった。ずっと見ていた。ずっとそばにいたいと願っていた。そんな思いをぶつける相手が、同性でなければ……。ほんの僅か、一握りだけでも若しかしたら望みがあったのかもしれないのに……。どうして、私は女だったんだろう。どうして、黄名子ちゃんも女だったんだろう。いつか、黄名子ちゃんには好きな人ができて、私から離れていっちゃうのかな?例えば、剣城とは仲がいい。ずるいずるいずるい、私だってプレイヤーだったらよかったのに!そしたら、少なくともあの同じフィールドの上には立てたのに。そんなの嫌だ、嫌だけど……どうしたらいいんだろう。黄名子ちゃんに嫌われることはしたくないと基本的に思っている。勿論の事よ。愛しているのだから。



だけど、いつか私より大切な人が出来るのは明白なこと。いっそ、当たって砕けてしまおうか。言葉通り砕けてしまうことは間違いないだろうけど。でも、それで関係が崩れて永遠に黄名子ちゃんの傍に居ることが許されないのはとても苦痛なこと。それこそ、死んでしまいたいと思ってしまうかもしれない。それならば、この思いを封じ込めて友達として傍に居られるほうがまだマシだ。なのに、思いは膨らんでいくばかり、黄名子ちゃんの話し声や、触れる指先から養分を得てぶくぶくと肥え太るのよ。ただ、見ているだけでいい、仲のいい友達でいいのずっとずっとそれだけで私は多幸感に満ちているの。なんてそんなのただの綺麗事よ。手を繋ぎたい、抱きしめたい、キスだってしたい、それ以上のことだって望みたいのよ。そんな汚い欲望が私を段々と蝕み支配するようになってきた。そして、それを理性で押さえつける毎日。だって、彼女ったらズルいのよ。私のみならず周りの男の子をも魅了するような笑顔、健康的な露出された肌。それから、触れるだけでドキドキしてしまうような繊細な造形美をした魔法仕掛けの指先も、鳴禽がさえずるような美しい声色も、全てが私を魅了し心を跳ねさせる材料になる。



綺麗に笑う彼女、一緒に笑う私。傍から見れば、素敵な友人同士。美しい友情。ひび割れて、その隙間からポタポタ液体状の汚いものが漏れて零れいく、欠片。ねぇ、知っている?私、黄名子ちゃんのこと友達だと思っていないのよ。いい友人を演じるのも、段々疲れてきているの。ごめんなさい、本当にこんなに邪な事を考えていて、でも辛くてたまらないのよ。辛抱強く耐えていても、たまに自分じゃない自分が貴女をどうにかしてしまう夢を抱いてしまうの。「名前ちゃんの手は冷たいやんね。でも、大丈夫!それは心が温かい証拠やんね!」そういって、黄名子ちゃんが私の手のひらを包んだ。禍根を残して手のひらが離れた。「……黄名子ちゃんの手は暖かいね」何気なく触れてきた、黄名子ちゃんに私は憎悪のようなものが胸の奥でわだかまるのを感じた。そうね、それは永劫じゃない。



触れないでほしい、貴女が触れるたびに気が狂いそうで息をするのも、鼓動を刻むのも何もかもが乱れてしまいそうで、愛しているの、愛しているの。伝えられるはずもない思いを抱いて、私は。……ついに幕を下ろした。自分じゃない自分が下した決断。ずっと塞ぎたいと思っていたその唇に。でもその触れた唇は、美しい友情の終わりを教えてくれたのだ。泣いていた。ホロホロ泣いていた。元気いっぱいで笑顔ばかりを貰っていた黄名子ちゃんが泣いているのを初めて見た。そんな黄名子ちゃんに私は、何も言えなかった。手は離れていく。許して何て言えないの。懺悔なんて出来ないの。黄名子ちゃんを泣かせたかったわけではなかったのよ。ただ、愛しさと切なさを残して私はその場から逃げるように走り去った。私の存在は、思いは、そんなに罪でしたか?罪なのはその行動だとはわかっていたの、だけど ……そうでなければ永遠に触れ合うことも無かったのよ。



title 月にユダ

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