あの子のアドレスゲットだぜ!



夜桜君は少し(本音を言えばかなり、)強引。私はマネージャーなのでとりあえず磯崎君のメアドを知っているのだが、これは大事な連絡などに使うだけで普段はメールのやり取りなんかしていないと言っても夜桜君は納得がいかないようだ。「磯崎とメールしているの?!何それ!ずるいずるいずるい!俺も俺もォ!」傍にいた篠山君が「……落ち着け、光良。名前……煩いから教えてやってくれる?……あと、俺にも」と目配りをする。生憎だが今はグラウンドに居るため、携帯は此処には無い。働いているときは邪魔になるので、部室においてきているのだ。(前に携帯を落として以来、持ち歩いていない。不慮の事故で壊れたなんて笑え無い)「ごめん、篠山君……携帯部室だわ……」「あ、ああ……。そうなんだ……ってことだ。だから、光良後でいいだr……光良っ?!」



少し目を離したすきに光良君が忽然と姿を消していた。姿を消したのはこの会話のほんの少し前なのだから、まだ遠くへは行ってないはずだ。その辺に居るだろうときょろきょろあたりを見回すと光良君が部室に向かってダッシュしている後姿が見えた。「……あ、あいつ、部室にあるって聞いて名前の携帯取りに行ったな?!」大人しい彼にしては珍しく声を張り上げた。篠山君、勘が鋭い……恐らく私も、そうだと思う。というか、それ以外に今部室に帰る理由と言うのが思い当たらない。「ちょおおっ!人の携帯勝手に?!まずいよぉ!」「見られちゃまずいものあるの?」篠山君が妙な詮索を入れる。変な方向に、妄想を膨らませないように釘を刺す。別にみられて困るデータは携帯にはない。……恐らく。……多分。……きっと。「……いや、無いよ?って、そうじゃなくて勝手に人の携帯見ちゃ駄目だって!」その言葉にハッと我に返る篠山君が「そうだよな。追いかけよう」と走り出す。流石にサッカー部の篠山君のほうが早いので彼に夜桜君を先に追いかけてくれるように頼んで私も走り出す。




ようやく部室についた頃にはすっかり息が上がってしまっていた。ああ、スタミナ無いなぁ。まだ息が荒いが事が事なので急いで部室の扉をバンと思い切り開け放つ。中にはやはり篠山君と光良君が居て、二人そろってこちらを見た。口を開いたのは篠山君だった「ごめん、間に合わなかった」申し訳なさそうに言い放った。確かに私たちの変な会話のせいでタイムロスしてしまった。それが原因の一つかもしれない。とはいえ、それだけが全ての原因かと言えばそうではない。もとはと言えば光良君の大胆な行動が全ていけないのだ。夜桜君は私の鞄を漁って携帯を見事探し出して、携帯と赤外通信でもしたのだろう満足げにニコニコ笑っている。夜桜君の傍らに私の通学用鞄が無残にも転がっているし。



なんでこうも突飛な行動に出るのだろうか。体から力が抜けた。落ち着いて、息をゆっくり整える。過ぎたことは仕方がないじゃないか。そう思うしかない。「わーい!これで毎日名前とメールできる〜!ハッハッハー!」「……毎日?!」「……え、何それ。羨ましいんだけど。部室に戻っちゃったし……ついでに俺にも、教えてくれない?」自分の鞄から携帯を取り出したので、私が夜桜君から携帯を取り返した。「えー!篠山にも教えるの?」不満げな夜桜君はこの際、無視で。



因みに後日、磯崎君から「光良みたいなことはありえねぇと思うけど、またこんなこと起きたら面倒だから、サッカー部の全員とメアド交換しておけ」との通達。別に嫌だったわけではないので、了承したのだが……私の携帯のメアドが一気に増えたのは言うまでもない。ああ、そうそう……夜桜君は宣言通り毎日のようにメールを送ってくる。篠山君はまあ、寡黙だが……意外なことにたまに来る。磯崎君は何となく頻度が増えた気がする(気のせいかもしれないが)。サッカー部の皆とも、前より仲良くなれたので結果オーライだと思うことにしよう。



*後日談



「あー、糞。俺だけが名前のメアド知っていたのに」部室の中で乱暴に椅子に腰かけてブチブチ不服そうにぼやいている磯崎に光良が不機嫌そうに掴みかかった。磯崎が煩わしそうに光良の手を払いのける。「何それぇ!お前ひとりずるい!!でも、俺これからも毎日メールするもんねぇ!きゃはははっ!」「それは、かえって迷惑なんじゃ……適当な頻度に留めておけよ」篠山はどうやら、苗字の負担にならない頻度でメールを送っているようで磯崎は「ほぉ」感心した様に感嘆の声を零した。頻度を少し増やした磯崎は少し不安に思っていたのだ。



軽い音がしてドアがオープンした。「ちーっす」妙に明るい軽めの挨拶が響く、部室の外に居たのは毒島だったようで中に堂々と入ってくる(彼も部員の一人なのだから問題はないが)それから、今話していた話題のことを聞いていたのかはたまた思い出したのか、ニヤニヤ笑って磯崎の肩を腕で突いた。「お前名前のメアド独占していたんだってな?隅におけねーなー」毒島の態度が気に食わなかったのか「……チッ」舌打ちをして睨みつける。「睨まれちまった。怖いなー、ははっ」毒島はいつものことだと大して気にも留めずにタオルを取って顔を拭く。「……おい、磯崎。そういうずるはなしで行こうぜ?フェアに、な?」



「そーだよ!俺なんかずーぅっとあははは、名前のメアド知らなかったんだよ?!俺と名前の仲なのに。変だよね、あははははっ」篠山と光良に言われて少しだけたじろぐ磯崎。三人を無視して毒島が苗字を少し憐れむ。勿論、光良関連に対してだ。
「うわぁ……、粘着されて名前が大変そうだな……。まー、俺は光良のお蔭で知れたようなもんだからなー」とのことで、完全には彼を責められないようであったが。篠山は事のあらましを知っているため、最後の追い打ちをかけた。「ていうか磯崎の場合、事が露呈して居た堪れなくなって仕方なく全員に教えろって、言った感じだけどな」さもしい野郎、と篠山が軽蔑の眼差しで見る。話の中心である当の磯崎は、あまり気が長いほうではなく寧ろ短い方で「うるせぇ!さっさと練習戻れ!さもねぇとグランド二十周追加すっからな!」怒鳴った。まだ休みは数分も経っていないのにとか、職権乱用だなどと口々にぼやきながら、磯崎を宥める方法も思いつかないので仕方なく各自グラウンドに戻って行った。


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