宮坂



ギラギラ照りつける太陽から僕たちは逃げるようにして校舎内に入り、比較的涼しい陰になっている場所に身を屈めた。勿論、気休めレベルで殆ど涼しいとは感じないけれど。陸上は楽しいけれど、あの忌まわしい太陽の光を浴び続けていれば日射病にでもなってしまいそうだった。僕は日に焼けて褐色だけど、名前先輩はそういうのに気を使っているのか幾分白い肌をしていた。名前先輩は「職員室はクーラーがあるから、乗っ取りたいよね」と不穏なことを口にして、口元を歪めた。名前先輩が言うと余り冗談には聞こえないのだけど、流石にそんなことはしない、といって笑っていた。



「ああ、それにしても暑いね、宮坂君。此処にもクーラーがあればいいのにね」そう言って、パタパタと胸元を下敷きで仰ぐ。僕はそのお零れの風を貰いながら同意した。暑い、というか……蒸しているのだ。湿度ばかりが高い。ぐったりと壁に寄りかかる。名前先輩は相変わらず忙しなく、下敷きを仰いでいた。しかし、時期に疲れてしまったのだろう。手首をマッサージしながら、仰ぐのをやめてしまった。お零れの風も勿論ストップ。「今度は、僕が仰ぎましょうか?」今まで沢山、お零れの風を貰ったお礼に、と付け足して下敷きを貸すように促すと名前先輩は、うーん……と唸って、下敷きを鞄の中にしまってしまった。



「疲れるから、いいよ。それより最終兵器を使おうか」「……最終兵器、ですか?」名前先輩が笑う。僕には最終兵器というのがさっぱり何のことかわからなかった。ただ、黙って名前先輩の行動を見守る。名前先輩はごそごそと鞄のファスナーを開けて、何か小さなものを取り出した。それが、小さな電池式の扇風機だということに僕は少しだけ時間を要してしまった。名前先輩がそれの電源を入れると僕に当てる。「どう?この間、買ったんだ」名前先輩が年相応の、無邪気な笑みを浮かべて僕に当てていた扇風機を自分に当てる。モーター音が絶え間なく聞こえてくる。暫くそれで涼んでいたときに、ふ、といきなり扇風機から送られていた風が途絶えた。


「あれ?」「……壊れちゃいましたか?」先輩が不思議そうに扇風機を見つめた後に、電池を入れている部分を弄り始める。ああ、電池が切れたのだろうか?「……いや……電池、切れただけだね」予感的中、電池が切れただけらしい。先輩はひどく残念そうに、扇風機を恨みがましく見つめた後に、諦めたように電池の切れ、役目を終えた小さな扇風機をもとあった場所に戻した。また、下敷きを取り出して、気だるそうに仰ぐ。それから、ふ、と思い出したように名前先輩が、僕に話しかけた。「あ、そうそう。本当は必要ないものは持ってきちゃいけないんだけど……宮坂君、チクらないでね」「ああ……そんなこと書いてありましたね。校則に」僕に釘を刺した、名前先輩は扇風機を先生に取り上げられたくないのか何処か必死な瞳をしていた。確かに、扇風機を取られてしまえば死活問題だ。だけど、僕に釘を刺さなくても僕は先生にチクったりなんかしない。僕は名前先輩に恨まれたくないし、何より……名前先輩といる時間が好きだから。これは二人だけの秘密、ということでいいんじゃないでしょうか。

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