大嫌い



名前は俺よりも、兄のほうが好きだってことを俺はわかっていた。兄がわかっているか、どうかはわからないけれど。だから、俺は名前が大嫌いだった。俺の気持ちを知っていながらあいつはたまに俺に話しかけてくる。あんな奴大嫌いだ。あいつのことが好きなら、俺に構うなよ。その中途半端な感情が俺を傷つけるのに、そんなこともわからねーのかよ。あーあー。本当面倒くさい、面倒くさいなんてもんじゃない。



「大嫌い……か」嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。俺は大嘘つきだ。自分の気持ちに嘘をついて自分を誤魔化しているだけだ。本心ではとっくに気が付いていた。だけど、それを直視するのはあまりにも残酷だった。なんで、俺じゃないんだ。本当に名前を嫌いになれるわけもないのに!俺は、名前が好きだ。好きなんだよ、どうしようもないくらいに。「アツヤ君……?」名前の声に俺はハッと顔を上げてドアに目をやった。そういえば、今日も名前が遊びに来たと親が言っていた気がする。ドアからほんの少しだけ、顔を覗かした名前と目が合った。その表情からは少なからず脅えのようなものを感じ取った。俺はそれを見て思わず表情を強張らせた。



「なんだよ」言ってしまった後に後悔をした。なんで、俺はこんなことしか言えないんだ。もっと、優しくしてやればいいのに。だけど、時間はもう、戻ってくれない。「……ごめんね。でも、アツヤ君とも……お話したいから」名前がおどおどと俺の顔色を伺いながらそう話した。なんだよ、本当にムカつく。俺はついで、なのかよ。俺が苛々しているのに気が付いたのか名前はビクッと体をビクつかせて、目を俺から逸らした。「いいから、入って来いよ」いつまでも、ドアを開けられていたらそこの隙間から冷たい風が入り込んでくる。いくらこの極寒の大地に住んでいて、慣れているからと言っても部屋の温度が下がっていくのはいただけない。名前は驚きながら、そろそろと俺の部屋へと入ってきた。そして、俺の隣に自然と座る。何で隣に来るんだよ。そして、なんで俺……こいつを部屋に招きいれたんだ。



ニコニコと嬉しそうに俺に話しかけてくる。俺はそれを曖昧に、返してやる。俺はそれどころじゃないからな。色んな意味で。今更「出ていけ」なんて酷いことを言えるわけもないし。本当、名前のことなんて大嫌いになれればいいのにな。そうしたら、そうしたら……俺はこんな気持ちにならずに済むのに。

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