楽しい方向音痴



あー、迷った。迷った。此処は何処?私は誰?自分の教室の場所もわからなくなるほどの極度の方向音痴。早く場所覚えないといけないのだろうけれど、如何せんこの学校は大きい。前に通っていた中学は本当小さな学校だったから迷うこともなかったのだけれども「ハァ……」私は本日何度目かのため息を吐いて、あてもなくふらふらと歩き出した。これだから、大きい学校は嫌なのだ。……はい、私のせいですよねぇ……ごめんなさい。「……あの、もしかして迷っていますか?」目の前の私と同時学年の子だと思われる子が怪訝そうな顔で見つめていた。ボブカットが似合う可愛らしい女の子だ。一応周りを見渡して、本当に自分に話しかけているのか確認した後に恥ずかしげに頷いた。「……はい……」目の前の女の子はそれを聞いて、にっこりと笑った。その顔がとても可愛らしくて、思わずにやけてしまいそうになったが怪しまれないように、顔を引き締めた。「さっきからこの辺を行ったり、来たりしていたのでもしかして、と思ったんです」「……そうでしたか……。えっと、二年三組を探しているんですけれど……何処ですかね?」素直に尋ねると、女の子は「え?」と言葉を詰まらせた。



「……此処、一年の校舎ですよ」「え。嘘?!」「嘘じゃないですよ。案内しますんで、ついてきてください!」女の子の柔らかな手が私の右手を引いた。「先輩だったんですね!あ、私、音無春奈って言います!」元気で大きな声は本当によく通る。「先輩……?てことは一年生ですか。私は名前です」お話しながら歩いていると、二年三組と書かれたプレートが目に入った。春奈ちゃんもそこで立ち止まる。



「あ、此処です。どうです?覚えられましたか?」「……厳しいかも知れません……。転校したばかりなもので……。助かりました、有難うございます」お礼を述べると春奈ちゃんも目を細めた。「いーえ。名前さんもしよかったら、メアド教えてください。今度また、迷ったとき私が、案内してあげますので!」私が携帯を出すと赤外通信で、お互いのアドレスを交換する。「遅刻してはまずいので、私はそろそろ行きますねー!」大きく手を振り、廊下を颯爽と駆けてゆく。うん、新しい学校生活も悪くなさそうだ。

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