選択肢



平良が嫉妬に狂った。ついでに少しお病みになっている。



半ば強制的に連れてこられた見慣れた鍵のかかった平良の部屋。二人きりのその部屋に甘い雰囲気など存在しない、ただ異様なまでに重たい空気が部屋に篭っていた。名前はまさか、付き合う前は此処まで嫉妬が酷いとは知らなかった。無知とは時として恐ろしいものだ。「言ったよね、俺。嫉妬、するって」平良の鋭い目が名前を捉えた。名前はそれに耐え切れずに逸らした。俯き何も言えない名前に尚も平良は言葉を続けた。「名前も他のやつらみたいに俺から離れていくんだ?」



名前には何故平良がそんなに怒っているのか、わからなかった。ただ、わかるのはこのままでは本当にまずい。ということだけだった。「そんなの、許さない」「……ただ、し?」「皆、俺から愛想つかしたさ。名前がそんな俺でも好きだって言ってくれたときは本当に嬉しかった。なのに、お前も……」やっぱり、こんな俺から離れていくのか。と先ほどの強い口調とは打って変わって弱弱しい声が聞こえてきた。愛していた、愛していたとも。最初は平良のそんな嫉妬すらも可愛いものだ、と思っていた名前も次第にそれが「重たい」と感じるようになってしまっていた。



「でも、もう無駄なんだろうな。お前は……名前は俺から愛想つかしているだろう。何となくわかっているさ。でも、俺は名前を手放す気は毛頭ない」平良が名前の腕を強く掴んだ。その痛みに顔をあげると平良の心底楽しそうに笑っている顔が目に入った。恐怖というのは多分こういうことを言うのだろう。恐怖で足はガクガクと震え、体は硬直してしまった。今の平良の状態では、何をされるかわかったものではない。「選択肢を名前にあげよう。俺と一緒にいるか、それとも、俺から離れるか」これは、選択肢などではない。名前には選ぶ権利などはじめから存在しない。明らかな脅迫だ、これは。平良を選ばなければ酷い目に遭うのなんて目に見えている。



「……あ……」「早く、選べ。俺を」グッと掴んでいた腕に力を込める。みしみしと骨が軋む、嫌な音が聞こえる。「……私は、貞から……離れない、よ……」本心からではない、これは強制だ。そうは思っていても怖くて声には出せずに居た。いつから、こうなった?何処で間違えた?付き合わなければ良かったのか。それすらも、もうわからない。

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