刻む名前



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思えばあのときに別れるべきだったんだと思う。照美がその異常性を見せだしたのは、付き合って一週間後くらいだっただろうか。付き合う前まではそんなことなかったと思うのだけれど。照美は兎に角、とても独占欲が強すぎたのだ。もう今更だし、何もかもが遅すぎるのだけれど……。昔はあんなに照美のことを愛していたのに……。今は愛しさよりも、恐怖でいつも脅えている気がする。別れられるものなら別れたい。でも、そんなことを言ったらまた、何をされるかわからないから出来もしない。



「名前、今日も美しいね。僕さ、色々考えたんだよ」女の自分なんかよりもよっぽど美しい金色の髪の毛を揺らして照美が笑った。その笑顔すらにも私は恐怖を覚える。怖い。この笑顔を向けてとても、いつも酷いことをするから。「君は、僕のものだ。そうだろう?」僕は何も間違っていない。といわんばかりに私に問いかける。勿論答えなんて最初から照美の中で出ているから私の回答は何の意味もなさないのだ。それでも、照美は私に問いかける。「僕いいことを思いついたんだ。名前が僕のものだって証拠がないから周りがちょっかいかけるんだ。自分の持ち物にはちゃんと名前を書く。名前も小学生の時に習ったよね?」「……なま、え?」私の声が自然と震えた。勿論寒いからとかじゃなくて恐怖から来る、震え。がちがちと歯がなった。なんて、情けないんだろう。



「そう、名前。でもマジックとかではいずれ、僕の名前が消えてしまう」ああ、ああ……もう嫌な予感しかしない。冷や汗が首筋を伝っていった。怖いのに、足が動かない。鋭い何かが視界の端に写った。「大丈夫だよ、痛いのは僕も一緒だから。名前だけがいたい思いをするなんて不公平だろう?大丈夫、ちゃんと僕もやるから、ね?」照美の手が私の腕を掴む、白くて細い指がゆっくり絡まる。抵抗して振りほどこうとしても、照美の強い力で押さえつけられてしまった。その日、私に刻まれた痛々しい赤い文字。それはまるで呪縛のようだった。私はいつこの呪縛から解放されるのだろうか。

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