塵へと還る



!死ネタ。佐久間ちょっとやばめ。


最近なんだか、周りの様子が可笑しい。まるで、俺を気遣うような、そんな感じ。周りがそんなにあからさまに俺に気を使うなんてことがなかったためどうもこそばゆい感じ。でも、なんだか、変。そう、どこかが可笑しいのだ。俺の彼女の名前は相変わらず可愛いし。俺には勿体無いくらいだ。ああ、もうあの時告白してオーケーがもらえるなんて思って居なかったから嬉しくて、嬉しくてその日一日ずっとまるで夢を見ているみたいにふわふわしていたのを思い出した。



頬を抓っても醒めない、なんて幸せな夢なんだろうか。こんなに幸せなことが続いてその内、どっと不幸でも押し寄せてくるんじゃないだろうか。そんな不安が一瞬胸に巣食ったが、名前の笑顔を見てそんな考えも一瞬で吹き飛んでしまった。「先輩、名前さんのこと、辛いのはわかりますが……」ほら、まただ。意味不明な言葉を後輩の成神に言われた。昨日も同じようなことを言われた気がする。俺は笑った。「何がだ?最近も名前との仲は良好そのものだぞ」



成神はそんな俺を見て、哀れみのような表情を浮かべてただ一言「そうですか……」と言っただけだった。成神の奴何かあったのか?心当たりがまるでない。「……佐久間、名前のことショックなのはわかるけどな……」源田が俺に話しかけてきた。珍しく歯切れが悪い。俺に言いにくいことなのだろうか。俺はそのことが気になって源田に聞く。「どうしたんだ?お前らしくない。何か言いたいことがあるならちゃんといってくれ」俺が少し厳しい口調で源田に尋ねる、源田はやはり言いにくそうにしていたがその重たい口を開いた。



「……名前は一ヶ月前に死んだじゃないか……。佐久間……大丈夫か?」「……は?」状況がまるで理解できなかった。俺の名前は生きているぞ?そんな馬鹿な。昨日だって一緒に帰ったし、何の冗談だ。そんなたちの悪い冗談を源田が口にするなんて。今日はエイプリルフールじゃあるまい。「嘘だ……。嘘だ嘘だ嘘だ!!」俺の口からはその言葉だけが繰り返し出てくるだけだった。源田はその様子を辛そうな表情で見ていた。「……佐久間、いい加減現実を見てくれよ。名前は死んだんだ。交通事故で……」ぐにゃり……世界が歪んでいった。あぁ、……思い出した。そうだ、一ヶ月前に名前は死んだんだ……。葬式のとき、周りの人間は皆泣いていた。すすり泣く声、声をあげてなく人もいた。俺、俺は……泣いていなかった。ただ、その光景を呆然と見つめていただけ。名前の机の上に花が飾られるようになった。女子が枯れる前に花をかえていた。俺はそんな現実を拒否してみて見ぬふりをした。



現実から目を背けて、名前と変わらぬ日々をすごしてきた。それが幻想だと知っていても俺は知らないふりをした。俺の名前は生きているって、思いたかったから。そんな辛い現実を見つめたくなかったから。俺は弱い人間だから、名前を愛していたから……。その場に膝をついて、名前が死んでから初めて涙を流した。これで、もう……名前に会うこともないだろう。俺が作り出した、幸せな幻は塵となる。「佐久間……大丈夫か?」「……あぁ。もう、大丈夫だ。」無理やり作った笑顔が痛々しかったのか源田は目を伏せた。さようなら、さようなら……俺の愛しい、名前。





→おまけ。


源田視点
俺はわからなかった。これが最善な道なのか、どうか。たとえそれが幻想だったとしても、佐久間は幸せそうに笑っていたから。現実に引き戻すことで、今までの幸せを壊してしまうことになる。それをわかっていて俺は佐久間を現実に引き戻した。これが、正しかったのだろうか。佐久間は虚ろな笑みを浮かべて「有難う」と俺に言った。もしかしたら俺にじゃないのかもしれないけれど。俺はその言葉に少しだけ救われた気がした。



現実を受け入れた佐久間は、あれからたまに名前の机に花を置いたりしている。もう名前の幻を見ることもなくなったらしい。頑なに受け入れようとしなかった現実を受け入れたとたん、見えなくなったらしい。「佐久間、練習に行こう」俺が佐久間に声をかけると何処か遠くを見つめていた、佐久間が虚ろな目で俺を見つめた。「……あぁ」そして、ぎこちない笑みを浮かべた。名前が居たころとは違う、何処か作り出した笑顔だ。幸せな幻想を見ているほうが、佐久間には幸せだったのかもしれないな……そう、たまにそう思ってしまう。俺はサッカーボールを片手に佐久間と共に歩き出した。

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