夢現



救いも何も無い。夢主わけあり。糖度は前半のみにあるかもしれません。

ピピピピ……。何処か遠い場所から、目覚ましの電子音がした。いつも、私は朝起きるのが辛いから、と目覚まし時計を布団から離れたところにセットしておくのだった。そう、一度起き上がらなければ届かないような場所だ。目覚まし時計は相変わらずけたたましい音で、私をたたき起こす。私は、眠い目を擦りながら布団を押しのけ起き上がり目覚ましのボタンを一度押した。そして、また、布団に戻った。これでは、目覚ましを遠くにセットした意味がないではないか。しかし、私は心地よいあの布団と枕が恋しくてまたもぐりこんでしまった。



「……」布団に潜るとまた、目を瞑る。「名前〜!起きなさい!吹雪君が迎えに来てくれるんでしょう?!」今度はお母さんの声だ。どうやら、私を寝かせてくれるつもりはないらしい。観念したように、私は布団からでた。「……ねむ」着替えを済ませて、居間に行くとお父さんはすでに、会社に向かったらしくお父さんの席には誰にも座っていなくて、お母さんと私の二人きりだった。食卓に、朝食が並べられる。美味しそうな匂いが鼻腔を刺激する。いつもの光景だ。その光景に何故か泣きそうになった。何故だろう、何故だろう。ぼけっ、と突っ立っている私にお母さんは早く食べなさいと小突いた。地味に、お母さんの攻撃は痛い。私は小突かれた頭を手で軽く摩った。そして、私は素直に、席に着いた。



「ご馳走様」私の口から出た言葉だった。唇がご馳走様、と形を作った。手を合わせたあとに洗面所にかけてゆく。あれ?私、いつの間にご飯を食べたのだろうか。寝ぼけていたのだろうか?口の中には何の味も残っていなかった。まぁ、いいや。もうすぐ迎えが来るし……急いで準備をしなk

ピンポーン。


……間に合わなかったらしい。お母さんの声が遠くから聞こえてくる「……名前〜。早くしなさい、吹雪君がきてくれたわよー」私は待ってもらうのが申し訳なく思い、急いで整えた。「おはよう、名前さん」「おはよう。ごめん……待たせちゃったね」私が申し訳なさそうに詫びると、吹雪は穏やかな笑みを湛えた。その笑みに先ほど感じたような切ない痛みが胸に走った。「平気だよ。まだまだ余裕だから歩いていこう?」私の手を慣れた手つきで握った。繋がれた手から感じる温かみに少しほっとした。いくつかの映像が混線した。何処の言語ともわからない言葉が私の頭の中を駆け巡った。その全ては悪意、悪意、悪意。そして、また映像が映し出された。



「今日の宿題はちゃんとやった?」「うん。でも全部は出来てない。最後のあの問題何?!また先生の趣味の応用問題じゃない!」私が怒っていた。これの前後の会話はまるで覚えていない。もうすでに学校は少しだけ見えていた。時計は、七時二十分くらいを指していた。「……確かにあれは、ちょっと難しかったね」吹雪君が困ったように苦笑する。他愛もない話。周りには生徒が歩いていて同じように雑談をしている。何も変わらない日常の風景だった。


キーンコーンカーン……。

突然、学校のチャイムがなった。あれ?可笑しいな、私たちは遅刻なんて…と、思いまわりの生徒を見ると生徒たちは走り出していた。少し遅れて私たちも駆け出す。「名前さん、急ごう?!」「……お、可笑しいな」時計は、いつの間にか八時を過ぎていた。

キーンコーンカーンコーン……。


遠くから聞こえるチャイムの音に目を醒ました。電池が切れて、もうその役目を果たすことのなくなった目覚まし時計は無残にもベッドの下に落ちていた。拾い上げて時計を見ると七時二十分で止まっていた。ペタペタと裸足で廊下を歩いていくと見慣れた居間につく。両親はまた、私のことで揉めていたらしい。冷めた目で、私を睨みつける。「今、起きたのか」冷たい声色だった。私は何も言わずに引き返した。とても、通り抜けられる雰囲気ではなかったからだ。



はぁ、ため息が自然にこぼれた。窓はずっとカーテンがしてあるため何もわからない。そろそろと、小さくカーテンの隙間から覗くとそこには、暫く見ていないであろう外の世界が広がっていた。たった一枚の硝子越しを隔てた向こう側は何故か遠くに感じられた。夕日が目に沁みて涙がこぼれそうになった。下校途中の吹雪君がたまたま家の下を女の子と歩いていた。あれが、現実だ。何もかもが嫌になって、カーテンを力任せに閉めて、ベッドに体を投げた。私はベッドに沈み、また目を閉じた。現実を忘れるための、手段をこれしかしらない。さっきの夢の続きを見たいな。もう醒めなくていいよ。こんな腐った現実なんかよりもずっとずっと幸せなのだから。

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