崩壊



救いっぽいのはあります。彼女設定。

周りの皆が壊れた、俺だけを取り残して、一人一人順番に周りの全てが壊れた。俺の両親も、友達も、先生も、恋人も、皆皆……ひび割れて脆く壊れて、修正不可能なほどに壊れてしまった。俺も一度は直そうと思ったんだ。いや、一度だけじゃない。何度も何度も、修正可能だと信じて疑わずに、虚しいほどの努力を重ねた。そして、俺は悟った。直せないんだ、と。そしていつから、これが俺の日常になってしまった。もう、いつからかなのか忘れてしまった。長いときが流れてしまったことだけは、確かだった。



周りの人々は皆笑っている。笑っている人々は皆壊れている。何が面白いのか、今日のニュースキャスターも一人、二人、三人道行く人々も皆、清々しい程の笑顔で。俺だけが無愛想にそれを見ている。冷静に見て、壊れていない人は俺だけ。機械の大事な部品が皆壊れてしまったように。俺はなんだかげんなりしてしまった。此処にいる俺だけが浮いていて、疲れてしまう。昨日の学校ではいつもどおり、生徒がくだらない授業に大爆笑して先生も笑い転げながら、意味不明な言葉を黒板に羅列している。ずっとずっと、それの繰り返し。俺はただ、その光景を黙って見つめているだけ。俺の世界だけが皆とは違って切り取られているかのようだ。逃げることも出来なければ、直すこともできない。俺はそれを享受するだけだ。「レオン、おっはよー!あはは!」



名前が後ろから笑いながら挨拶をしてきた。名前も壊れてからずっと笑っている。名前は俺が知っている限りでは最後の最後くらいまで、壊れていなかった。なのに、やっぱり名前も壊れてしまった。名前だけは壊れてほしくなかったのに。今日もいつものあの、本当の笑顔ではないような作った笑顔を顔に貼り付けていた。俺は、素っ気無く挨拶を返した。「おはよう」そんな素っ気無い挨拶でも名前は笑顔だ。いつだって笑顔笑顔、周りはいつも笑顔。俺以外の皆は笑顔。狂ったように笑い声をあげて、いかれたように笑顔を浮かべる。いつものように名前が話しかけてきた。だけど、今日はいつもと違った。「……ねぇ、レオンはどうして笑わなくなっちゃったの?」一瞬、名前の顔から笑顔が消えた。周りのときが止まったかのように全てが動きを止めた。周りの全ての人が俺たちを見ているように感じられた。だが、それも一瞬だけだった。直ぐにあの煩い笑い声と、雑音が溢れかえった。そして、名前のあのうそ臭い笑顔。



「笑っているよ?」ほら、俺も同じ。お前らと同じいかれた人間だ。そう、言い聞かせるようにわずかな余韻を残して俺も笑顔を浮かべた。同じはずなのに、同じはずなのに。違うと、周りの人間にいわれた気がした。「嘘、レオン昔はこんなんじゃなかった。ねぇ、レオン。レオンはどうして辛そうなの?」俺の言葉は直ぐに否定文で返された。ああ?よくわからないよ、よくわからない。頭の中はこんがらかっていた。だって、壊れたのは周りで、俺はそれを直そうとして。大体、皆がいかれたように笑うから俺は辛くて?辛い?……笑っているよ、俺だって。可笑しい。可笑しい。俺の世界が壊れてゆく音がした。



わかっていたんだ。本当は。……周りが壊れるわけが無いってことくらいな。本当に、壊れたのはいかれたのは俺のほうだ、って。「……俺にも、笑わせてくれ……」嘆願するような、小さな掠れた声で、名前に言うと名前はさっきまでとは違う、昔見たようなとびきりの満面の笑みを浮かべて俺の口元を指で押さえつけた。「ほら、笑うなんて、簡単だよ?」指で無理やり作られた笑顔はとてもぎこちなかった。だけど、俺は名前の指が離れた後も必死でその笑顔を保っていた。



笑う筋肉なんてだいぶ退化しているんじゃないだろうか?だって、俺が笑ったのは本当に大昔。でも、これで俺は救われた。

そうして、俺も壊れた。

崩 壊

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