ハッピー・ラヴァーズ・ソング




(・南沢の後輩で、昔はふざけ合ったりして仲良しな感じだったのが、付き合い始めて夢主がソワソワしてしまう話)


もっと南沢先輩とは対等だったはずなのだ。少なくともこんなにぎくしゃくした関係ではなかったのは、確かなのだ。少なくともほんの一か月前はこうではなかった。それこそ、性別の壁と先輩後輩という関係をぶち抜いた程には仲が良かった。ふざけて、一緒に成ってゲームセンターで小さなぬいぐるみを乱獲したり。購買のパンやおにぎりを争奪するくらいには仲が良かった。それが拗れたのは、私と南沢先輩の関係が友人から一変して、恋人と言う立場に成ってからだ。そんなふうに友人だと思って接していたからこそ、南沢先輩の告白には大いに驚かされたし、冗句か?と尋ねるほどには、最初は異性として見ていなかったので、断ろうとした。



だけど、南沢先輩の表情は至ってからかおうとかそういう意思は見受けられず、それどころか不安げに髪の毛をくりくりと弄りだす物だから。長年一緒にいた私としては、友人にすら戻れない事を恐れて、少しの間の後に頷いてしまったのだった。これは今では失敗だったと思う。予想以上に南沢先輩は物事を性急に進めてしまうので、そうと決まれば、と篤志とこれからは呼んでほしいと行き成り宣告してきて、挙句の果てに頬に慣れた様に冷えた唇をくっ付けてきたのだ。容姿端麗な南沢先輩にそんなことをされてしまえば、意識しないわけもなく。私の心臓は、相手に伝わってしまうのではないかと言うほどに高鳴った。



それからというもの、私は篤志と呼び捨てで言っているのだが、どうにもしっくりこない。今日のデートも周りの目を気にしてしまってソワソワしてしまうし挙句の果てには、篤志の話を半分聞き逃すという大失態をおかしてしまった。気分を絶対悪くしただろうなぁ、と思ったが思いのほか悪い方には捉えられず、調子が悪いみたいだね。家まで送るからゆっくり休んで、と緊張で冷たくなってしまった手を繋いで家まで送り届けて貰った。家に帰ってからは猛反省した。枕に顔を埋めて、篤志に心の中で謝った。ブーブーと携帯が音を立てた。



中を確認すると矢張り、篤志なわけで。心配しているという内容が綴られたメールに私は申し訳なく思いながらも家で少し寝たら楽に成った、と返信しておいた。だが、明日に成ればまた、調子が悪くなってしまうだろう。この一か月どうにも、篤志の前では挙動不審だ。それも仕方のない事なのだが、どうにも申し訳なさが勝ってしまう。篤志は飄々としているけれどあれで居て、きっと心は傷ついているはずなのだ。



翌日に、昨日はごめんなさい、と言葉を添えて篤志に作ってきたお弁当を一緒に食べる。矢張り、この空気は重たく私には今すぐ逃げ出したい空間である。少し前まではこんなはずじゃなかったのに!寧ろ楽しいお弁当タイムだったのに!どうしてこうなった?私の頭は混乱していた、完全に。篤志の手が私の額に触れた。「熱は「無いよっ!」咄嗟に後ずさってしまった。これには篤志も流石に何かに気が付いたようであった。「やっぱり此処一か月の間、名前が可笑しかったのは……俺のせいなの?」「いや、ちがっ」「違わないだろう?」だって、いつだって俺から離れて行こうとする。以前まで出来ていたことが全くできなくなっていると寂しげに、俯いて影を作った。



「俺の事、嫌に成った?」「違う……っ、誤解……私が、篤志の事を、異性として見てしまってから変で凄く心臓がドキドキして、」篤志と少し触れるだけで、私の心臓は煩い程に音を立てるのだ。「本当に?」篤志がやけに疑わしげに訪ねてくるのでうんうんと数度、縦に頷いて必死にアピールした。穏やかな表情に戻った、篤志に私はほっと胸を撫で下ろしたが、それもほんの少しの間だけであった。やがて、不穏な空気が立ち込め、篤志が近づいてきて、ゆっくりと顔を近づけた。前の様に頬に口づけられるのかと思って、覚悟をして、きつく目を瞑った。



だが、それは頬に降り注ぐことは無かった。ふんわりと柔らかい口付けは私の唇の上に、落とされた。私のファーストキスがこんな形で奪われるとは思ってもみなかったので、私はバクバク煩い心臓を落ち着かせるのに必死に成りながら、篤志を見るためにゆっくりと双眸をゆっくりと開けた。そこにはクスクス忍ぶように笑っていた。「ははっ、本当だ。顔が赤い」だけど、それは篤志も同じだった。指摘はしないけれど。なんだ、篤志も実は同じだったんだと気が付いた私は急に体の力が抜けた様に、心の緊張も解れたのだった。


Title 箱庭

あとがき

南沢さん二回目位なので、彼の台詞が偽物臭いです…すみません。


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