溢れてこぼれ落ちる気持ち




(・貴志部とアフロディ監督との間で揺れる夢主)


夏の匂いと日差しを思わせる、眩しくて優しい貴志部君。今日も同じクラスの中彼と過ごす空間は居心地がよく、一緒にいるだけで、隣に居られるだけで、笑っていられるだけで幸せに成れる。気も良くきいて今日の日直で男子がサボって持って行かなかった大量のノートが置き去られているのを、私が持って行こうとしているのを見て「俺が持っていくよ、名前さん」と易々とそれを持ち上げて職員室まで持って行ってくれた。その背中はいつだって同じくらいに見えるのに私なんかより断然、逞しくて。一緒に居る時はいつも、頼りに成る。



彼は、此処でよくサッカーをしている。ドリンクの差し入れに行くと汗を真っ白いタオルで拭きながら私とドリンクを見て、微笑みを浮かべてくれて、有難うと言ってくれる。マネージャーとして当然のことをしているのに、それでもいつも丁寧に有難うって言ってくれる。今日も部員たちに配る、ドリンクを一緒に成って配ってくれて、いつも手伝ってくれる。何の気もないのだろうけれど、それだけで胸が逸って。頬を染めていく。その、温かな心が私の心を引き寄せ、温かい気持ちに成る。



どうして、そんなに優しいの?って聞いたとき貴志部君は「それは……君の事が、名前さんが放っておけないっていうか、頑張っている姿を見ると俺も頑張ろうって気に成るし、それに……名前さんは俺にとって特別で……その、好きなんだ」それを言ったきり、張り付いていた影は走り去っていった。それからは貴志部君の事をさらに意識するようになった。奥手かなって思っていたけれど意外と化身と同じように肉食系でガツガツ話題を振ってくるし、私を揺さぶりかけてくる。「昨日のあれ、見た?」「此処のスイーツ美味しいんだって」話題はいつだって私の気を引く物ばかりだ。



それはそうに決まっているのかもしれない、私と彼は同い年だ。だから、見る高さは同じって決まっているのだ。だから、好きな物をいつだって共有できる、いつだって同じ目線で話が出来るいつだって、自分らしく居させてくれる。そんな人。だから、私は優しい彼の事が気に成るんだと思う。



その人は春の陽気な木漏れ日を思い出す。大人で美人な照美監督。頑張ったらいつも頑張ったねと、褒めてくれて。たまに差し入れを貰ったりする。だけど、距離は離れていて、私はいつも高めのヒールをはいた女性の様に背伸びをしなければいけない。幼稚な子供だって思われたくないから。それにいつだって、彼の視線には見透かされているような気がするのだ(やめて、見透かさないで、私は私は、)。それでも大人の包容力なのか、照美監督の隣は居心地のいい、空気だ。照美監督の事はわからないことだらけだ。貴志部君と違って、過去の事は知らないし、同じものを共有することは無い。



それでも惹かれるのはその大きな懐と、優しさだ。いつも女の子なんだから、無理しちゃだめだよって、女の子扱いしてくれる。一緒にいると何でも話せてしまいそうな気がする。甘えてしまいたくなる。照美監督が私の事をそんな目で見ていないって知っているのに、心が言う事を聞いてくれない。気に成るのだ、いや、若しかしたら好きなのかもしれない。もどかしいくらいに、彼の事を、彼の全てを知りたくて知りたくて。だけど、大きな溝は埋まらないまま、乗り越えられないまま。わからないからこそ、知りたくなるのに。綺麗な琥珀色の髪の毛はいつも束ねられていて美しさを醸し出している。



きっと、貴志部君と居るのはずっとずっと照美監督といるよりも楽なのだろう。同じ目線で居られるから、きっと、照美監督と居れば年下の女の子として甘えていられるのだろう。だけど、私らしくいさせてくれるのは貴志部君だ。少し背伸びをしなければいけないのは照美監督の前だ。二人とも私にとって、大事な人に違いはない。だけど、私は……。私はどちらを本当に好きなのだろう?どちらを選べばいいのだろう?貴志部君、照美監督。どちらも私にはかけがえのない人。


Title リコリスの花束を

あとがき

揺れる…揺れていますかね?貴志部君とは同じ目線で居られるけれど、照美ちゃんの前では背伸びしなければいけない夢主を書いてみました。


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